エルジェやエドガール・P.ジャコブと並んでベルギーを代表する漫画家フランカンが亡くなってもう11年。エルジェが描くタンタンは、どこか早く大人になりすぎたような、きまじめさと余裕のなさが鼻についたりすることもあるが、フランカンの描くスピルーやファンタジオはいつまでたっても少年のような、好奇心とはつらつさがいっぱい。怠けたいばかりにガストンが発明し続ける道具や機械の奇抜さ、ヒョウとサルの中間のようなマルスュピラミの長い長いしっぽのおかしさ。そこには、すべてを笑い飛ばしてしまえる精神だけが持つことができるポエジーがある。「彼に比べたら私はただの漫画家」とエルジェが脱帽したのももっともだ。
ひたすら子供たちのために漫画を描き続けたフランカンだったが、晩年になって〈Fluide Glacial〉という大人向けの漫画雑誌に、『Idées noires』という、ナンセンスなギャグ漫画を連載する。新発明の銃弾を手に入れ、心浮き浮きとウサギを打つハンター。ところが、その弾は逆方向に発射され、彼の頭は粉々に。飢えと寒さで息も絶え絶えの旅人。あっ、遠くに一面のともしびが、と思ったら、それは、旅人の死をよだれをたらしながら待っているオオカミの眼…といった残酷なブラックユーモアが続き、いつのまにか読者の僕らも、そんなユーモアに感染してしまう、ちょっと危ない一冊だ。(真)