ふだん大金に縁のない生活をしていると、少しでも金が入れば目先の楽しみに即座使っちゃおう! という貧乏人特有の意識が働き、それはしばしば後悔につながる。けれどもどうやら常日頃、大金に慣れ親しんでいる人々にとっても、規模は違うとはいえ目先の楽しみに使っちゃえ! という欲望は、その後悔の規模ももちろん違うとはいえ同じらしい…。「お墓にお金は持って入れない」ことは事実で、貯めるという行為も、よほど長生きしない限り、または趣味でない限り、それほど人生の役に立たないことは歴然としている。これが消費社会の哀しい現実なのだ。 ルイ=シャルル・シルジャックのこの戯曲では、20世紀末、つまり現代社会の実業界で成功してきた男が主人公。善悪はさておき、すべて「買う!」という信念を貫いてきた男の誇りと自信が、彼を慕い追い抜こうと精進してきた若い実業家たち、そして彼の行為をこれまで我慢してきた家族たちによってくつがえされる…。実際の実業界だって、子供たちが喜んで戯れる「人生ゲーム」や「モノポリー」の世界と似ているのかもしれない。ただ空想の世界に見えてもこれが現実世界だというのが恐ろしい。買った! 売った! 勝った! 負けた!…人生ってやっぱりゲームなのかな…と嘆息。だったら私は勝ち負けなしの傍観者でいたほうが幸せかもしれない…たとえ生涯大金とは縁がないとしても…だ。 演出はエチエンヌ・ビエリー、ジャック・フランツが演じるワンマンな実業家が、破産にも懲りずタイトルどおり「金持ちが自信を取り戻す」姿に、フランスの現政権下ならばこういう人物こそがしぶとく生き延びるのだろうか…と不吉な戦慄をおぼえる。(海) |
火-土21h、土マチネ18h、日15h。 |
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