アルジェリアで15年暮らした姉が、生家に二人の子供を連れて戻ってくる。家は自分が相続したもの、と勝手を振る舞う姉と弟の間で激しい口論が始まる。姉弟の間になぜ憎悪が存在するのか? 第二次大戦直後に姉が出産したことで、姉が敵国の兵士との間の子を産んだと「丸刈り」にされてしまったこと、そして姉をそんなひどい目に合わせたのは弟自身だったこと、姉の親友だった弟の嫁が謎の死を遂げ、その後に弟が後妻として迎えた女(亡くなった嫁の妹)が異様に信心深く、しかもアル中であること、弟がスパルタ教育をして育てた息子が家から逃れるためにアルジェリアへ戦争に行きたいと切実に願っていること? ゆがんだ家族関係。けれども姉と弟の間で炸裂する憎しみの中には、互いをそして自己を愛でる奇妙な感情が存在し、それが皮肉な笑いを誘う。 フランス北部に生まれた劇作家ベルナール=マリー・コルテスは、 1960年代はじめ、つまり第二次大戦の傷を拭いきれないフランスがアルジェリア独立戦争に突入しようとする時代を背景に、人間の奥底に残酷さをえぐりとる。 演出は昨年8月座長に就任し自身もコメディー・フランセーズの役者として活躍してきたミュリエル・マイエット。コルテスといえばパトリス・シェローの演出が有名だが、彼よりも控えめとはいえマイエットがコルテスの「生々しく」「過激」なフランス語に適した演出、美術や音響、照明をみつけようと工夫した努力の跡が見える。賛否両論はあってもモリエール、コルネイユ、ラシーヌ、ロスタン…などいわゆる正統派のフランス演劇から脱し、コメディー・フランセーズの粒揃いの役者が演じるコルテスの強烈な世界に浸れたことに、私はかなり満足。(海) |
6/9迄(日程はwww.comedie-francaise.frにて確認を)。 |
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