精霊たちの森? 死霊たちの柩? Musee du Quai Branly

 「アジア・アフリカ・オセアニア・南北アメリカの文明と芸術」。つまりルーヴルからは締め出されてきた美術品に捧げられた美術館が新しいケ・ブランリー美術館だ。完成まで参否両論が渦巻き、今後も議論の嵐をよぶことだろう。

 シラク大統領が1995年第一期大統領就任早々に構想を打ち出し、新たな美の殿堂、多文化主義のシンボルとして強力に推進し、6月23日にアナン国連事務総長の臨席のもとオープンした。かつては植民地として支配され虐げられた人々の生み出した造形美を再発見しようというメッセージがそこにはある。
 しかし、と批判者はいう。それは現地から奪い、だまし取った作品を「未開芸術」として売買し儲けてきた美術商たちの戦略でしかないし、人類学博物館とアジア・オセアニア博物館所蔵の30数万点にのぼるオブジェを新美術館に移管させる強引な画策もあったし、多くの展示品がオークションで法外な値段で購入されたのだ、と。
 未開や原始という差別語はやめて「第一芸術」と呼び方も提案されたが、館名に使われるところまでは熟さなかった。研究資料をごっそりもち去られた人類学博物館からすれば、文化や社会の背景ぬきでオブジェをひたすら美的な表現として見せる美術館は、人の無知を促進するだけだということにもなる。
 しかし、作品があたえる驚きや感動の前に長々と「説明」を垂れる「博物館」の展示にわたしたちは飽きがきていたことも確かだ。「精霊たちが生き続ける場」を作ろうとしたという設計者の言葉が実現し、ただの美しさを超えた作品のもつ「力」を自由に発散させているかが勝負どころだ。ところが祈りや呪術のこもった力強い作品の多くが「靴箱」と形容される空間に閉じ込められ、時には狭い隙間から覗き込むようにして見なければならないのは理解しがたい。展示が何かわざとらしい。高価なオブジェを守らねばならないのだろうか。ひとめぐりして、ガラスの壁の向こうに閉ざされた精霊たちの弔歌が聞こえたような気がしてきた。
 建物を囲む木立が整い、精霊の森に生き生きした声がこだまするのか、森の底の柩に息絶えた美を弔問に行くのか、またいつか行って確かめてみよう。(公)

Cindy Sherman “Untitled #96” 1981
Collection Olbricht CR: Cindy Sherman

37 quai Branly – portail Debily 7e
01.5661.7000 www.quaibranly.fr
火-日10h-18h30/木21h30まで。月休。

Le Centre Wallonie-Bruxelles a Paris

 8月は、ほとんどのギャラリーが夏休み。そこで、ポンピドゥ・センターのまん前にある、「充実した大ギャラリー」という雰囲気のパリ・ワロニー=ブリュッセル・センターに行ってみよう。
 ベルギーのフランス語圏であるワロン地域の文化や、そこの出身アーティストを紹介する目的で造られた総合文化施設だ。1階が画廊、地下には200席の映画室と187席のコンサートホールがある。作家や詩人を招いた文学の集いも開催される。
 開館したのは、ポンピドゥ・センターの開館直後だった。当時はまだ文化的な地域として注目されておらず、「ここに造ったのは、一種の賭けだった」と、館長のフィリップ・ナイエールさんは言う。観光客も来るが、フランス人の常連が多い。
 9月17日までは、コレクター、トマ・ネーリンクの膨大な戦後美術コレクションの中から40点を選んだ、「コブラと抽象の間」展を開催している。コペンハーゲン、ブリュッセル、アムステルダムの頭文字をつないだグループ〈cobra〉の知られざる作品も展示されており、現代美術ファンには嬉しい展覧会だ。(羽)
Vandercam Serge, Moi et les masque. Hommage a James Ensor, 1967
Joel Vandercam, ADAGP

127-129 rue Saint-Martin 4e www.cwb.fr
入館料3euros。

●Joyeux indiens au temps des grands Moghols
 16世紀から18世紀まで栄えたインドのムガル王朝時代の宝飾・工芸品300点。東西をつなぐ交易の道を経てイスラム世界にもたらされた逸品。クウェート国立博物館所蔵。9/4迄(火休)。
ルーヴル美術館
●Jens Ferdinand WILLUMSEN (1863-1958)
 デンマーク人。本国で絵画、建築を学びパリへ。1890年代の前衛ナビ派の影響を受けて象徴主義的作品を多く制作するが、後に表現主義へと変化。絵画、版画、セラミック。9/17迄(月休)。
オルセー美術館
●Henry DARGER (1892-1973)
 4歳で母親と死別し、12歳で精神病院に入れられ、17歳で脱走。80歳までシカゴの病院の掃除夫として働くかたわら人知れず絵を描き続けた、アメリカ人アール・ブリュットの代表的な画家。子供を奴隷にする乱暴なおとなから逃れる7人の女の子の壮大な物語。フランスで初の回顧展。9/24迄(月火休)。
La Maison rouge : 10 bd de la Bastille 12e

●Auguste RODIN (1849-1906)/ Eugene CARRIERE (1840-1917)

 友人であり、互いに影響を与え合った彫刻家ロダンと画家カリエール。アッサンブラージュやデフォルメを施し、未完成のようにみえる作品は当時革新的だった。大理石に絵を描くようなロダンの彫刻。影を彫り上げるようなカリエールの絵画。10/1迄(月休)。
オルセー美術館

●Marilyn, la derniere seance
 マリリン・モンロー最後の写真59点。1962年バート・スターンがヴォーグ誌のために撮影。死の2カ月前、モンローの自然ではかない美しさ。
10/30迄(火休)。
Musee Maillol : 61 rue de Grenelle 7e

〈バカンス先で〉
●Recontres d’Arles 2006
 毎年夏が待ち遠しいアルルの写真フェスティバル。今年は写真・映像作家のレイモン・ドパルドンが、コミッショナーとして招待作家をセレクト。デヴィッド・ゴールドバット展など、50以上の展覧会を開催。8/27または9/17迄。
www.rencontres-arles.com