フランスでは今、まさに収穫の秋を迎え、また今年も新たなワインたちが生まれはじめている。中でも最も早く飲まれる「ヌーヴォー(プリムール=新酒)」は、人々の注目の的。待ち遠しい解禁日は毎年11月の第3木曜日、2004年は18日となる。
さあ一体、今年はどんなヌーヴォーに出会えるのか…。みなさん、覚悟のほどはいかが?
何につけ「解禁日」という言葉の響きには、特別なウキウキ感がある。もともと「旬」を大切にする日本人は、「初もの好き」でもあるようだ。そんな私たちが、いわばフランスワインの初物「ヴァン・ヌーヴォー(プリムール=新酒)」を放って置くはずがない!
ということで、今回は「ヌーヴォー」に目を向けてみた。味わいをどうのこうの言うよりも、飲むこと自体に意義がある、そんなイメージのヌーヴォーではあるが、それでもやっぱり今年の出来は? と気になってしまうのが人情。
そこでみなさんより一足早く、ヌーヴォーの中のヌーヴォーとして有名すぎるほど有名な「ボジョレ・ヌーヴォー」を楽しんできちゃったというわけだが、では、そのお味のほどはというと…『Le Petit bar à vin』
ワインに強くなりたい、と思っている人は、さっそくこの新聞を定期購読。今回の特集を構成した阿部弘さんが編集長です。
*問い合わせは:
petitbar@hotmail.com
イラスト:YAGI Amiko
〈Château Cambonで解禁前のヌーヴォー〉雨ニモ負ケズ、寒サニモメゲズ…
小雨まじりの10月31日、ちょっと肌寒い中、それでもできたてホヤホヤのボジョレ・ヌーヴォーを試そうと、多くの人々がとある醸造所 “Château Cambon(シャトー・カンボン)” を訪れていた。
この日は恒例の、一足早いヌーヴォー・テイスティング会。とはいっても、半分解禁日を迎えたようなお祭り騒ぎ。外はあいにくの天気でも、中は活気であふれている。みんな寒さを忘れ、グラス片手にボジョレ・ヌーヴォー2004年に、胸を躍らせている。
ブルゴーニュとはいってもリヨンに近いこのボジョレ地方。その中心地的な町のひとつであるBelleville(ベルヴィル)からわずかに離れると、ボジョレの畑たちに出会う。そんな中にこのシャトー・カンボンはある。
一見素朴な田舎の醸造所といったたたずまい。だがその実、世界に注目を浴びつつあるワインがここで生まれている。その証拠に、集まった人々の中には、やはり素晴らしい作り手たちの姿が。
だからこそ、「雨ニモ負ケズ」にやってくる人々の熱意たるやスゴイものがある。もちろん私もその中に含まれるのだが…。
「シャトー」と呼ぶにしては、小さな看板。
まさに田舎の農家というその醸造所の一部。でもここから、世界中へとワインたちがはばたいていく。
ボジョレの最重要人物…
到着すると、さっそく一人のマダムが声をかけてきてくれた。その人こそ、ここの責任者でもあるマダム・ラピエールさん。「じゃあモン・マリ(夫)を紹介するから…」とそちらに顔を向けると、そこにいたのは…。
今のボジョレワインを語る上で欠かすことのできない人物、それがその人、マルセル・ラピエールさんだ。ここ、シャトー・カンボンの醸造は、彼が手がけている。
ではでは、そのラピエールさんとは一体?
ボジョレに限らず、フランスのあちらこちらでごく自然なワイン作りが注目を浴びてきているが、ある意味その先駆け的存在にあたるのがラピエールさんだ。
彼は醸造に際して酸化防止剤となる亜硫酸を使用しない。そのことによってよりブドウの味わいが生き生きと表れ、しかも人間の身体にもやさしいワインとな
る。
もともと炭酸ガスを使って醸造し、フルーティさを第一としたボジョレのワインは、その意味でも自然な作りが受け入れられやすい土地だったのかもしれない。
2人ともボジョレにそまってしまった、ラピエールさん夫妻。
タンクから好きなだけ…
醸造所にはヌーヴォーのいっぱい詰まったタンクが並んでいる。そこには、5種類のヌーヴォーが。それぞれの違いは、畑の区画や、醸造のちょっとした違いなどによる。そのすべてをひと通り試飲してみる。
アメリカ向けのものは、繊細さよりしっかり感が、日本やフランス向けのものには旨味と優しさが表現されている。
とりあえずそのすべてを試したら、あとは野となれ山となれ。みんなタンクについた小さな蛇口をひねっては、グラスにどんどん注いでいく。それにしても、
こんなに好きに飲んでいいのだろうか?
そんな心配は無用なようだ。というのも、ヌーヴォーは解禁時期を過ぎたら、あとは商品価値がなくなっていく。一年のほとんどの売上げを、この時期に上げて
しまうという作り手もあるという。という点では、まさにタイミングの勝負。
ここまでくると後は止まらない。まさにヌーヴォーマジックなのであった。
醸造所内にはヌーヴォーの入った大きなタンクがいくつも並ぶ。
カーヴの中の大にぎわい…
その並びの建物は、古いカーヴ(ワイン倉庫)となっているようだ。そこにはテーブルが所狭しと並べられ、集まった人々はここで昼食をとっている。
ここでは今度は食べ放題!
素朴ながらシンプルでおいしい田舎料理といった趣きのもの、豚肉やハム、ソーセージ、ジャガイモなど、いくら食べてもOK。これがまたボジョレ・ヌー
ヴォーにピッタリ合うのだった。思えばボジョレは、こうやって飲まれるのが最も理に適っているような気がする。レストランでスノッブに飲むワインでは、決
してない。
いつしか音楽も交えて、カーヴ内はますますにぎやかなお祭り騒ぎとなっていった。
グラス片手に語り合う訪問者たち。今年のボジョレの出来はというと…
まあ、ただ飲んだだけのレポートでもいけないので、今年のヌーヴォーについて。
あの暑さに見まわれた2003年と比べて、今年は例年並みの出来。その点では、本来のボジョレのイメージが、そのまま表れていたともいえるが、去年のワインがしっかりと濃すぎたため、今年は少しさわやか過ぎると感じる人もあるだろう。
7、8月の天気がふるわなかったため、熟したブドウを待ちつつ、9月20日ころからゆっくりと収穫をすすめたが、10月初め雹(ひょう)が…。もちろん
それ以降のブドウは使わなかったので、出来は悪くないとのこと。フルーティでさわやかさ、軽やかさのある、ボジョレらしいヌーヴォーであった。ぜひ、お楽
しみに。シンプルでおいしい料理がワインのお供。
もちろん、お祭りには音楽も欠かせない。次の日の朝…
とまあそんな感じで、ついつい飲みすぎつつ幕を閉じたヌーヴォー・プチ解禁日。いささかフライング気味なのをいいことに、昼から夕方まで、結局ボトル2本分ほど飲んでしまったのだった。
もちろん心配されるのは次の日の朝。おおいに頭痛に悩まされたのだろうと思ってらっしゃる方も多いだろうが、それがなかなかどうして、意外と目覚めもスッキリ!
というのも、このようにできるだけナチュラルな作りをしたワインは、あまり頭痛を起こさないもの。というよりむしろ、体にジンワリしみるようなものが多い。「お酒には弱い」といった方にも、おすすめできるかも。
いやあ、それにしても、いい意味で驚きとともに迎えた翌朝。これほどのワインもそうそうないだろう。ラピエールさんのヌーヴォーはわれわれに、2日間かけて感動を味わわせてくれたのだった。