●Laurent Mauvignier《Seuls》
トニーとポリーヌ。幼なじみの二人。学生時代、まわりからカップルだと思われながらも、アパートをシェアしていた二人。恋人を追って学業をすてて外国へと発ったポリーヌ。同じく学業をやめたものの、鉄道整備の夜間勤務をするトニー。それから数年して、ポリーヌが戻ってくる。そして、仕事と住居がみつかるまで、再び二人の同居生活が始まる…。
この小説は、Laurent Mauvignierの第四作。この欄では、2001年にその第二作を紹介したことがある(483号)。まだ一作も邦訳はされていないが、今後が十分期待される作家だ。
悪い天気が続いた冬に、『Seuls』という題、しかも内容もかなり暗いというか、どろどろしているというか、「タイムリー」なこの小説であるが、あまりにもタイムリーすぎて、あまり大きくはとりあげられていない。実際、僕自身、この時期に読みたいのは、南国舞台の冒険ものとか、とってもロマンチックなものだったが…。
本屋で第一段落をさっと読んで惹きつけられた。そして、いったん読み出すと、止められなくなった。久々にここまでのめり込んでしまう小説に出会った。
ここであまり内容をいうと面白くなくなるのでいわないが、なんというか、ページごと、段落ごと、一文ごとに、すべてがクレシェンドに進んでいく。ストーリー構成はもちろん、語り自体も見事に構成されている。エクリチュールのある小説といってよいだろう。あえて映画で喩えれば、デビッド・リンチ的といえる。リンチ映画に時折みられる凄まじいものはないが、あの独特なディープなスピード感が感じられるのだ。
この小説、かなりおすすめ。もちろん、バックミュージックにはアンジェロ・バダラメンティをかけたい。(樫)