パリの冬を乗り越えるための大切な武器、それはコートだ。それさえ羽織ればわが身は寒気から守られる、そんな安心感を保証してくれるコートは冬の必需品だ。
フランスでは寒さに対し体を鍛えるという観念が薄い気がする。秋口でも寒ければ、みんな直ちにコートやダウンジャケットを身にまとう。十月から五月まで、通算八カ月、コートを着ていた年もあった。季節にかまわず寒ければコートをひっかける、この耐寒法をわたしはパリで学んだ。
ずっしり重たく頼りがいのあるコートもいいが、できれば軽く動きやすく、肩が凝らないコートが理想だ。それに機能面だけではない。数カ月の間、外出する時、わが身を包む衣となるのだから、自分としっくりいくものでなくてはならない。憂鬱な冬、気持ちを明るくさせてくれることも条件。
数年前、奮発してすべての条件を満たす理想のコートを買った。それ以来、良きパートナーとして幾冬かをともに過ごし、今も愛用のコートである。ところが先日、いつものようにこのコートに腕をとおし、ポケットに手を突っこむと、裏地に穴が開いていることに気づいた。袖口もすり切れ始めている。鏡に映るコートには気のせいか、かつての輝きがない。首の後ろがざらざらすると思い、点検すると、襟の付け根の布が綻びていた。日本にいた時、ここまでコートを着込んだ記憶はない。そろそろ寿命かな。
サンドレスは、何回夏が過ぎても、流行遅れになっても、新品同様の姿を保ったままなのに、あー、パリではコートがすりきれる。(O・S)