荒唐無稽だが、ツボを心得ている。 『ラストサムライ』

今回は、何を書くべきかとても悩みました。ジャン=マルク・ムートゥー監督『Violence des echanges en milieu temperes』という長たらしい題名のフランス映画に感銘し、主演のジェレミー・レニエも素晴らしく、絶対にこれを取り上げるつもりでいたのですが、『ラストサムライ』などを観てしまい、基本的に(吉)がこの欄で騒がなくても客足がつく大作は無視する方針なのですが、これに泣いた自分に唖然とし、海外生活が永い ”日本人” である自分を顧みてしまったという点において、オヴニー的な話題を提供できるかと、あえてこのハリウッド産の日本映画(?)を選ぶに至りました。

 世界で最も人気がある俳優であろうトム・クルーズが耐え難く、嫌いであるにも拘わらず、この映画を製作し主演したこの男は、ひょっとして賢い奴なのではないか、と不覚にも気を許してしまう何かがこの映画にはある。明治維新の世に、アメリカから銃の使い方を教えに来た元南北戦争の勇士というのが彼の役どころ。彼はアメリカの先住民を殺戮した自分を今は嫌悪している。明治政府に雇われた身の彼は、政府に楯突く武士の残党退治に赴くが逆に捕虜となり、ユートピアのような日本の田舎で暮らし、そこの長である勝元(渡辺謙)に惹かれていく。これは異文化を受け入れた男の物語として、普遍的な価値がある。一方で、負けと分かっていても突っ込んで行く “滅びの美 学” がカッコよくて泣ける。ヤバイ! 明治天皇(中村七之助)は、勝元の最期の様子を聞いて、武器商人であるアメリカを拒絶する。今の首相とは大違い。凄い!

 これは荒唐無稽なエンターテイメント映画だが、妙にツボを突いてくる。し、しかし日本人であるという民族意識が、涙の主犯だとしたら、これ本当にヤバイ! (吉)