大学で哲学を専攻し、現在は小説家を夢見る文学青年ギネルくん。彼のアパートは、パリ中心からRER A2線に乗り15分足らずのChampignyにある。105m2もの贅沢な面積で、縦に奥行きが十分にあるから、まるで船の先端部分に住んでいる気分だとか。日々彼はここで憧れのジャック・ケロアック風の小説や、モロッコの旅行記を書き綴る。このアパートは、彼の夢を積んで出航する大型船なのだ。 彼がこのアパートに越してきたのは 2年ほど前。もともと幼なじみがここに住んでいたのだが、一人では広すぎると彼に同居を誘ったのだ。その後幼なじみは仕事の都合で部屋を去り、彼一人が残されてしまった。今度は彼が新たな同居人を探す番である。まずはインターネットで同居人を探すサイトにアクセス。同時に、大学などにアノンスを掲示した。するとすぐに反響があり、学生を中心に10人ほどの訪問があった。見ず知らずの人の中からベストの同居人を選ぶのは容易ではないが、彼には一つだけ譲れない条件があった。「じつは同居していた幼なじみが、しょっちゅう彼女を家に連れ込んでいたんだ。気を遣ってうんざり。だから今度は、恋人を入り浸りにさせないような人がよかった」。というわけで、彼が選んだのは、遠距離恋愛中だという真面目そうな男性だった。しかもよく外出する人だから、一人の時間もたっぷりとれるはず。新しい同居人との生活は始まったばかりだが、さてどうなることやら。 ところで彼はこのアパートで毎年夏に友人とアート作品の発表イベント〈Souk Trans-disciplinaire〉を開く。ジャンルは絵画、写真、彫刻、ビデオ作品、DJ、ダンスと多岐にわたる。もちろん文章で勝負のギネルくんは、小説の一部をパネルにして展示する。「自己満足で終わらせないため、お互い作品に対して辛口批評もちゃんとするんだよ」というのが、いかにもフランスの若者らしい。もちろん来年も開催予定なので、興味がある方は作品を持って参加して欲しいという。もちろん見学に来るだけでも大歓迎だ。(瑞)
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*同居人が探せるサイト |
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ラディゲが育った町。 | |
ギネルくんのアパートはChampigny駅の真向かいにある。駅前だから少々うるさいのが残念だが、5分ほど歩き住宅街を抜ければ、マルヌ川の美しい岸辺に出会える。ここまで来れば聞こえてくるのは川の流れと木立の囁きばかりであり、読書がてらゆったり気分でピクニックが楽しめるのだ。 さてこの岸辺付近は正確にはサン・モール・デ・フォセという町にあたり、レイモン・ラディゲが育った場所として名高い。この町こそが小説『肉体の悪魔』や『ドルジェル伯の舞踏会』のインスピレーションの源になっているのだ。ちょうど今年はラディゲの生誕100周年。サン・モールの美術館では彼の大規模な回顧展が開催されるとか。かつてジャン・コクトーは、ラディゲを「マルヌ川の奇跡」と呼んだ。天才を生んだこの川の煌めきは、ギネルくんにどんなインスピレーションを与えるだろう。(瑞)
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マルヌ川のほとりで友人たちとピクニック。 *レイモン・ラディゲ回顧展《Raymond Radiguet, regards d’un siecle a l’autre》10月11日~2004年1月11日まで開催予定。 *Musee de Saint-Maur Villa Medicis : 5 rue Saint-Hilaire 94210 La Varenne Saint-Hilaire 01.4886.3328 |