引っ越しが多くて大変だ。 RER B線Saint-Michel駅 。家賃なし。オテル・デュー病院の水道が飲料水。

 トマスさんは、ノートルダム聖堂近辺で夜を明かすようになって20年。
 「『ノートルダムのせむし男』の映画でも、この周辺はホームレスが多いでしょう? 大昔からそういう場所なんです」
 かつてはポンヌフの下でもよく寝ていた。「でも7、8年前にアーチストのクリストがポンヌフを〈包んだ〉後、僕の寝床のあったところが鉄柵でふさがれた。それまでは毎晩25人から30人くらいのホームレスが寝ていたものだけれど」
 まだ兵役が義務づけられていた1974年のドイツで、共産主義に傾倒していたトマスさんは、徴兵を断固拒否。投獄を免れるため友人の家に隠れ住んでいた。その頃、ドイツでは赤軍テロリストの捜査が厳しくなったので、面倒を避けて出国する。以来、6カ国語を話す彼はフランス全国、ヨーロッパ中を旅してきたが「そのなかでも一番住みやすいのはパリ」と断言する。住みやすい? 現内務大臣は「物乞いしたら罰金をとる」と言っているようですが?
 「フランス人はそうはさせておかないさ。前もホームレス閉め出しが計られたことはあったが、フランス人はそれに対して立ち上がり阻止した過去だってある」
 厳寒のときはメトロ、サン・ミッシェルの駅構内に居を移す人が多いがトマスさんもそのひとり。でも彼が常に引っ越しをするのは、一カ所に定住すると泥棒に狙われるから。犬まで盗もうとする若者たちもいて、さらわれそうな愛犬モモを奪われまいと殴り合いになり、歯を全部折られてしまった。
 「シャワーをもっと浴びたい」。無料シャワーはポンピドゥーセンター近くの市の体育館や、パリの北端、ビシャ病院まで行かなければならない。昔、水泳の指導員をやっていたこともあるトマスさん。「あのころは何せ、1日に5、6回は浴びていたからね。1日2回が理想的だけれど、今は週2回だけ」
 家賃はないとはいえ生活費はかさむ。
1日の平均出費は、犬2匹分の食料6ユーロ、タバコ3.5ユーロ、コーヒー1ユーロ、冷たい食事だと6ユーロ、暖かい食事だと8ユーロ、フランクフルト新聞1.5ユーロ。ビール5ユーロ…。お金は、日曜日の市場(最高の稼ぎ時!)や、RERで南の郊外の町へ行って物乞いで稼ぐ(「RERなら犬と乗っても文句を言われない。フランスではメトロやRERは、浮浪者は無料なんだ」)犬を2匹も養うなんて大変では?「犬1匹と物乞いすると1日で約30ユーロ、2匹連れていると50ユーロ稼げる。フランス人は犬が好きだからね」
 あと数週間で、モモとは10年来の付き合いになる。(美)
ノートルダムのベスト・ビュー・ポイント。愛犬モモ(右)とベータ(左)。

水際にはカモメ。

家財道具は一切このなかに。

かつてよく「住んでいた」ところ。ポンヌフ。

ドイツ語の新聞は毎日読んでいる。

愛犬2匹の予防接種証明。身分証明やパスポートは一切持っていない。

寒さが厳しいときはここへ。サン・ミッシェルの駅構内。

「ここは浮浪者でもカフェが飲める数少ない場所。よそではカフェを飲もうと思っても、ギャルソンに追い出されてしまう。昔はもっと暮らしやすかった」


 

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