映画とフランス語
題名はポスターと並んでその作品の「顔」だ。タイトルとしてまずかったり覚えにくかったりすると、観客が動員できない。そこで各配給会社は「魅力的な」
タイトルをつけるために工夫を凝らす。仏題の直訳が使えない時には、作品の内容からタイトルが選ばれたりもする。
少し古いがジャン・ギャバンが主演する『Pépé-le-Moco』(1937)や『Des Gens sans importance』(1956)の場合、前者は、主人公の愛称「ぺぺ・ル・モコ」よりはドラマチックな『望郷』になり、後者は、「重要でない人々」という直訳ではヒットは到底望めないので『ヘッドライト』になった。
最近の作品を見てみよう。アンドレ・テシネの『J’embrasse pas』(1991)は、主人公である娼婦の台詞「私は接吻しない」がタイトルに使われているが、日本へ渡ると、娼婦に恋する青年に重きが置かれ『深夜カフェのピエール』となる。若い娘と初老男の淡い恋を描くクロード・ソーテの『Nelly et Monsieur Arnaud』(1995)は、初恋を思わせるようなタイトルの『とまどい』になる。クロード・シャブロルの『La
Cérémonie』(1995)は、「儀式」ではどこのやくざ映画かと間違われることを懸念してか『沈黙の女、ロウフィールド館の惨劇』と変身してい
る。セドリック・クラピッシュの『Rien du tout』(1992)は、直訳の「何もなし」じゃちょっとつまらないので、『百貨店大百科』。横浜フランス映画祭には原題直訳の「他人の味」で出品されたアニエス・ジャウイの『Le Goût des autres』(2000)は、公開時には『ムッシュ・カステラの恋』と大変身! 極めつけは、アラン・レネの『On connait la chanson』(1997)だろうか。タイトルは、「わかっているよ!」というフランス語の慣用句だが、『恋するシャンソン』という楽しい題になった。まだまだたくさんあるけれど、すべては創造と想像の賜物、配給者の皆さん本当にお疲れ様です。 (海)