夫婦間の謎を解く鍵 。 La Confession impudique

 「私は自分の心の中を人に知らせることを好まない」けれども、「人の心の奥底を根掘り葉掘りすること」は好きなのである。と、日記をつけることを決意した妻はこんな言葉を書き残す。夫はといえば、今年からは日記に夫婦間の性の秘密までを洗いざらい書き出すぞ、という決意を元日にやはり記録している。二人とも自分の日記を相手が読むはずだ、とふんでいる。そして夫がわざと仕舞い忘れた日記の鍵から、すべてが始まる。
 ご存知、谷崎潤一郎の『鍵』が舞台化されている。舞台の上には、後でテーブルとしても使われる大きなベッド、そしてその上に横たわる二人の男女。フランス語タイトル『淫らな告白』のとおり、夫と妻が交互に日記の内容を独白していく。市川崑監督の『鍵』(1959)で郁子を演じた京マチ子の印象が強烈だったので、フランス人役者が演じることにはじめは抵抗を感じていた。ところが、郁子役のカトリーヌ・ショーヴィエールが意外にいいのだ。京マチ子のような妖艶さはないしそれほどの美人でもないかわりに、小柄でなで肩、熟女のいやらしさと幼女の可愛いさが同居していて、別の魅力がある。そして自ら演出もし夫役も演じるジャック・ボンドゥは、意外性はないが手堅い演技を見せる。舞台には夫婦だけでも、他の登場人物たちの動きが見えるような、空間づくりと演出に「なるほど」と感心。2/10日まで。(海)

*Theatre Artistic Athenains:
45 bis rue Richard Lenoir 11e
01.4356.3832 火金土/20h30 水木/19h マチネ土日/16h 10 €~25€


●Madame Marguerite
 アニー・ジラルド演じるマルグリット先生の生徒は、私たち観客。先生が教室(舞台)に現れたらいっせいに起立し、先生の号令があるまで着席してはいけない。マルグリット先生の教えはラディカルだ。生物の授業では「人間は皆いつか死ぬ」という文章を子供たちに書き写させ、算
数では、バナナを使って人間界の仕組みは弱肉強食だと子供たちに教える。この舞台劇は、ロベルト・アタイドのテキストを1975年にジラルド自身が舞台化し好評を得た。約25年ぶりの再演には昔の生徒らしき観客たちから積極的な合いの手が入って、和気あいあいとした雰囲気で
1時間が過ぎていく。
 ジラルド=マルグリット先生は「歯に衣を着せない」率直さと、親たちが聞いたら卒倒してしまうような言葉遣いでこの世を呪い、同時に溢れんばかりの愛情で生徒を叱咤激励する。1時間目と2時間目の合間に舞台で一服するジラルドの横顔は、年を重ねたといえども相変わらず厳しく美しく、ヴィスコンティ、フェレーリの作品で輝いていた若いころの彼女を一瞬垣間見た。(海)

*Splendid : 48 rue du Fg St-Martin 10e 01.4208.2193 火-土/19h30 日/16h
15€~23€
●Nannie sort ce soir
 アイルランド人作家ショーン・オケーシーが1924年に書いた戯作では、ダブリンの下町にある食料品屋が舞台になる。おかみのポリー、ポリーに求婚する老人三人、若い物乞い、飲んだくれの40女ナニーと息子…老人たちは暇を、失業中の若者たちは健康な身体を、ナニーは自分の運命をもてあましている…終わりは、生か死か、悲劇か喜劇か、選択は我々観客に委ねられる。言葉づかい、衣装や美術の少し色褪せたキッチュな色使いが、下町の雰囲気を見事に再現し、悲哀と皮肉に満ちた人物たちを引き立てている。演出はマーク・フランソワ。2/17日まで。

*Theatre de Gennevilliers : 41 av. des Gresillons Gennevilliers 01.4132.2610