年頭に縁起でもないと言われるかもしれないが、治安がこの数年悪くなる一方のパリで、じつをいうと私自身もスリの被害体験を味わってしまった。
その日、空港に友だちを迎えに行った帰りの郊外電車RER(B)線の車両内で事件が起きたのである。午後十時頃だった。車両には私たち以外に数人が乗っており、私たちの周りの席は空いていた。
各駅停車なので途中から五、六人の若者が乗ってきて私たちの真横に座り何か話していた。それとは別に若いカップルが近づいてきて、友だちに何か話しかけ私に握手を求めてきた。「最近は物騒になってきており、席を変えた方がいいのでは…」と話し腰を上げた時だった。先ほど握手を求めてきた若者が素早く私のウェストポーチを力ずくで剥ぎ取るとすぐ走り去った。隣に座っていた若者たちも彼に続いて走って行った。私はすぐ追いかけてウェストポーチを取り返そうと、若者を追いかけて問い詰めたが、彼は何も持っていない。取ってすぐに仲間に渡したらしい。
別の若者が、今度は私がベルトにつけていた携帯電話をこれも強引に剥ぎ取り、前の車両へと逃げた。電車が次の駅で止まるやいなや、そのグループは飛び降りて姿を消した。その数分後に駅員と警備員が駆けつけてくれたがすでに遅かった…。(A・H)