ドゥヴォス、カッセルの演技が素晴らしい。 “Sur mes levres”

 やっぱりロメールは凄い! <六つの教訓話>シリーズや<喜劇とことわざ>シリーズをこよなく愛してきた(吉)ではあるが、最新作『イギリス婦人とオルレアン公 / L’Anglaise et le Duc』を観るにあたっては多少ビビった。何しろコスプレ(!?)だ。動きの少ない演劇的な空間で、馴染みのないフランス語が乱発され…下手したら居眠りしかねない…。しかし、この懸念は懸念に終わった。
 御年81歳のロメール様は、果敢にハイテクを駆使して、かつて体験したことのない映画的空間に我々を引き入れる。1790年代、革命直後のパリがこの映画のもう一人の主人公。ロメールは場所にこだわる監督だ。過去の作品を思い返しても、登場人物達が生きた物語の場所と空気が鮮明に蘇る。本作では当時のパリの町を緻密に再現することに固執した。絵画が動き出す(そういえば黒澤明も『夢』でこんな手法を使っていたっけ)…不思議なのは、パリという町が今も昔の面影をしっかり留めているので、私達がよく知ってる街角がちょっとだけ様相を変えてそこにある点。そしてあくまでも絵画的な背景の中を登場人物達が動き回るので、観客はリアリズムの中に取り込まれるのとは異なる距離感を保ちながら、あくまでも時代劇を観賞する立場に置かれる。何とも微妙かつ詩的な違和感だ。 一方、物語、こちらもまた面白い。ルイ16世のいとこ、オルレアン公と親密な関係にあったイギリス女性が体験したロベスピエールの恐怖政治の世、彼女の歴史の中の個人史は、かつて描かれたことのない観点からこの時代を切っている。明日はギロチンでもおかしくない時間を生き抜く彼女の日々は、ハラハラドキドキのサスペンス。同時に、頑固ながらも柔軟な一人の女性像が浮かび上がる。(吉)