生の静寂、文学の声。

●Laurent Mauvignier《Apprendre a finir》
 夫の不倫のためにすでに破局寸前の家庭。すでに家を出ている娘一人とまだ幼い息子二人。喧嘩の絶えない毎日。ある日夫は事故に遭い、半身不随に…。
 この小説は、そんな夫の体と心を癒そうと努める妻の物語り、妻の「語り」。最初から最後まで妻の内的独白によって語られるこの小説に流れているのは、女性の優しさ、寛容、包容力、苦悩、弱さ、憂い、強さ。人間の「tendresse」、「douceur」。
 上記のような状況でのこの内的独白という、一見しつこく重たくとらえられる語りは、女性心理を表す・暴露するのではない。それだけではない。彼女の視点から見られる日常の情景が織り交ぜられる。そして、滑らかで透き通る文体、文字の連なり、この「声」は、高音女性ヴォーカルとアクアサウンドの響くアンビエントハウスミュージックの如く、ある種の心地よさを感じさせる。
 静寂なる生に声を与えること、言葉を持たない現実に言葉を与えることに、文学の力はある。そんなことにあらためて気づかされる詩的小説。静寂な夏の夜の読書に是非お勧めしたい。 (樫)

“Moi j’epluchais les oranges, je mixais les legumes, je preparais les soupes.
Je lui servais les bols. Et cette tendresse des apres-midi qu’on passait
tous les deux a la maison, avec le silence qu’il y a quand les enfants
sont a l’ecole. Ce silence pour nous seuls. […] ce calme autour de
nous comme pour nous reposer et reprendre des forces ensemble, comme
pour que nos coeurs puissent s’entendre a l’unisson sous la peau. Comme
pour apprendre a nous revoir. (p. 19)”

 

Editions de Minuit, 2001, 128p., 9,91 euros (65fr)