心の痛みをわけあう人間の美しさ。 Une bete sur la lune

 生まれ育った土地から迫害され追放される民たちの怒りと哀しみは計り知れない。オスマン・トルコ帝国に住んでいたアルメニア人は、1915年にトルコ人から集団殺戮の目にあっている。略奪と惨殺を逃れた者のなかには、西ヨーロッパへ移住した者もあればアメリカへ逃げのびた者もいる。このリチャード・カリノスキーの戯曲では、この時代に命からがらアルメニアからアメリカへ亡命し、その後写真館の経営に成功した一人のアルメニア人と、彼が写真を見て妻に選び同郷から呼び寄せた小娘が出会い、夫婦として生活していく有様が描かれる。家族の唯一の形見であるぼろ布でできた人形をいつも手放さない妻と、顔を切り抜いた家族の写真を額に入れて飾り毎日拝んでいる夫…。それぞれが忘れられない過去の重みと共に生きている。ある日とうとう夫が妻に自分の過去を打ち明ける日がやってくる。惨殺された家族の代わりに自分は子供をたくさんもうけ本当の家族を築きたかったのだ…と。自分をいつも子供扱いしていた夫が少年のように泣き崩れるのを見て、妻は夫の受けた傷の深さに驚き、夫を思わず抱きしめ…初めて二人は本物の夫婦となる。
 話は年老いた男の回想という形で進行する。夫婦が面倒をみる浮浪児が語るという設定だ。ただイリナ・ブルック(ピーター・ブルックの娘)の演出では、この語り手にほとんど重要性がおかれていない。それなら省いてもよかったのではないか、と思う。主演のふたり(シモン・アブカリアンとコリーヌ・ジャベール)には派手さはないが、本当に素晴らしい演技を見せる(モリエール賞7部門でノミネート)。見終わった後に感動の余韻が残る、そんな作品。(海)

*Theatre de l’Oeuvre :

55 rue de Clichy 9e 01.4453.8888

火~土21h、日15h30 100F~240F

●Trois Versions de la Vie
 人間は後悔して止まない動物だ。日常の中でもしょっちゅう「あんなことをしなければ(言わなければ)よかった」と思っている。ヤスミナ・レザが書いたこの舞台劇では二組のカップルが一緒に過ごす夕べが描かれる。ただ、その夕べはそれぞれの言動の違いから三つのパターンで発展し、はじめのシチュエーションは一緒でも展開次第で最後には全く別なものができあがる。前もって自分の言うべきことや相手の返答が予知できるならいいが、時には悪い方向にしか物事が進まないことがある…未知の部分が多いからこそ人間は面白いし、人生もまたしかり、とこの作品を見て思う。作者レザ自身も舞台を踏み、リシャール・ベリ、カトリーヌ・フロ、ステファンヌ・フレイスと豪華なメンバーが絶妙に息のあったところを見せる。演出はパトリック・ケルブラ。(モリエール賞4部門ノミネート)*Antoine-Simone Berriau :
14 bd de Strasbourg 10e 01.4208.7771

●Donkey is going
秀島実、上杉貢代ら6名のダンサーからなる “Ensemble W” が、打楽器演奏をバックにロバの動きに象徴される拒否、抵抗、自由を表現する。
4日、5日/20h30 80F/50F (学割・会員)
*Maison de la culture du Japon :
101bis quai Branly 15e 01.4437.9595

●Self-Unfinished
 パリとベルリンの間を往復しながら、グザヴィエ・ルロワは、変異することをやめない肉体を探求する。今回の”Self-Unfinished”もその延長線上の作品だ。病院のごとく殺風景な白い空間で、ルロワがゆるやかな運動を繰り返していくと、その肉体は彼の意志を離れ、一つの生命をもってうごめく肉体として独り立ちしてしまう。
22日~26日/19h30 70F
*Theatre de la Ville : 2 place du Chatelet 4e 01.4274.2277