家の洗面所で、誰でも髪染めができるような製品が開発されたのは、1931年、アメリカでのことだそうだ。50年代前半に「ライフ」誌は、髪を染めるアメリカ人は約1000万人、57年には「ルック」誌が、5500万人という数字を発表している。
しかし60年代になっても社会はヘアカラーに対して「身持ちの悪い女のもの」という先入観を持っていた。アメリカのスチュワーデスは、1962年、髪染めの権利を求めて航空会社を相手に闘ったという*。ヨーロッパに初のカラーリング専門の店ができたのは1978年。イギリスのダニエル・ギャビンが開いた店だった。彼は80年代後半になって、それまでの人工的なカラーや質感に代わる、軽さと動きを与えるカラーリングを提唱した。
90年代のカラーブームの立役者となったクリストフ・ロバンは、95年にパリにカラー専門サロンをオープンしている。71年、トロワ生まれの彼は、若くしてジャン=ルイ・ダヴィッド社に入社し、18歳でカラーリングの新技術開発チームのチーフとなった。彼が美容室に入ったころはカラーの専門家はいなかった。多くの人が化粧をするように気軽に毛染めする今日では信じられないことだが、カラーリングはちょっと前までは「白髪を隠すためのもの」と見なされていたのだ。その後、クリストフは一時はモデル・エージェンシー「エリート」のブッカーとなるが、仕事を終えると自分のステュディオでモデルのヘア・カラーをした。スーパーモデルたちが彼によって次々と髪の色を変えられ、カラーブームがおこった。カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャンヌ・モローをはじめ、イザベル・アジャーニ、サンドリン・ボネールなどフランスの大女優たちが彼の顧客リストにずらっと並ぶ。役作りの一環として髪の色を変えるそうだ。ウマ・サーマン、グウィネス・パルトロー、ロバート・レッドフォードやリュック・ベッソンらも彼のファンだ。
彼はバレイヤージュという技術を使う。全体的に色を変えるだけでなく、絵筆を使って毛先や顔のまわりなどに明るい色を入れる。その部分に光が当たっているように見え、立体感が出る。ちょうどバカンスから帰ってきたフランス人が肌だけでなく髪も陽に焼けて、全体に明るい色になって、根本より毛先のほうが明るくなる、そんな感じの効果も得られる。
クリストフに今年の春夏の傾向を聞いてみた。「今のポップ・パンクブームの影響で、過激でうす汚れた、はすっぱな感じのブロンドが流行ると思う。あたかも《自分の家の風呂場で自分で染めた》ような感じ。でも日本人の場合、アンディ・ウォーホルみたいな色までにはいかず、はちみつブロンドくらいが似合うと思う。自分でやった風に、わざと髪の根本の色は濃くしておいて、毛先ははちみつ色とか」とアドバイスをしてくれた。(美)
「今年の春夏は、ポップ・パンクブームの影響で、過激でうす汚れた、はすっぱな感じのあたかも《自分の家の風呂場で自分で染めた》ようなブロンドが流行ると思う。日本人には大変かもしれないけれど…」
*彼のホームページはwww.colorist.net 4月半ばに更新、カラーリングのアドバイスなども掲載予定。
*カラーリングで痛んだ髪のケア商品Christophe Robinは “colette”、”sephora blanc”、”bon Marche”などで販売。彼のホームページで注文することもできる。
*プロ向けのセミナーも開催。問い合わせ FCB :01.4926.9632
*サロン COLORIST:01.4260.9915
*「Big Hair」 グラント・マクラッケン著 PARCO出版