シリアル・キラー裁判

 1991年から97年末までパリ東部の市街で、美人の学生やキャリア(建築、精神療法、映画編集他) 女性7人が強姦後、殺害されるというシリアル・キラー事件が起きた。そのうちの5人は夜遅く帰宅時に男に尾行されアパート内に押し入られ、強姦された後、口にガムテープを巻きつけられ、折り畳みナイフで喉もとをかき切られ胸部を数回刺されるという手口で殺された。あとの2人は地下パーキングの車内で強姦され刺殺された。また3人の女性はアパートの建物のホ−ルまたは家のドアの前で暴行を受けている。
 98年3月24日、地下鉄ブランシュ駅の出口で警官に逮捕された容疑者ギ・ジョルジュ(38) の公判が、3月19日から3週間にわたってパリ重罪院で開かれた。
 逮捕された当時スクワット仲間の間では”ジョー”と呼ばれ親しまれていたギ・ジョルジュ(実名ランピヨン)。彼は仏女性と米国人男性の間に生まれ、生後3カ月で里親に預けられたが、通学もうまくいかず養護施設での保護と失踪をくり返す。16歳頃から女性をナイフで脅し金を奪い、20歳から暴行・強姦へと発展(懲役10年)、29歳(1991年)からシリアル・キラーの味をしめ吸血鬼化していった。
 数カ所の犯行現場と被害者の遺体から検出されたDNAと彼のDNAが一致し、被告は刑事に自供したにもかかわらず、開廷初日から自供をひるがえし無実の主張と黙秘戦術をくり返す。法廷で血まみれの被害者の検証写真を新たに見せられ、殺害を逃れた被害者や遺族らの悲痛な証言に迫られ、3月27日ついに7人の女性の殺害を認めると同時に遺族に、里親家族に、自分自身に許しを請うている。法廷で被告の自供を勝ち取った遺族はついにシリアル・キラーの仮面を剥がし、娘の残酷な死と遺族の痛恨を公のものにしえたカタルシスとともに新たな悲嘆に泣き崩れる。そして被告は「なぜあのようなことをするのか自分にも分からない、もしかしたら善良なジョルジュが悪いジョルジュをかばっているのかもしれない」とつぶやく。「何かがまたは誰かが犯行を止めさせられると思うか」という弁護士の質問にジョルジュは「死」ともらす。
 精神分析家たちは、ギ・ジョルジュは精神異常者ではないと断定する。彼は誰の子でもないというアイデンティティの欠如を、狼がウサギを食い殺すのと同じ捕食本能で満たし若い女性を捕らえ強姦、刺殺へと突き進んだ。社会的、肉体的に理想的な女性を餌食にする満足感を味わいながら、吸血鬼のように彼女らのはつらつとした生命を吸収しようとナルシシズム的倒錯に走った、と分析する。
 4月4日、検察側はジョルジュ被告を「悪の具現」とみなし無期懲役、うち22年間は恩赦の効かない禁固刑を求刑。5日、陪審員は、殺人7件と殺人未遂1件、強姦1件、暴行1件の犯罪に対し求刑どおりの評決を下した。判決後、被告ギ・ジョル
ジュは顔を強張らせ、遺族と彼の里親家族の方に向かって「なぜ親たちは僕を捨てたのか。…処罰は受け入れるが社会への憎しみは消えない」と放った。(君)