●On appelle ca le printemps
幼い娘と夫を後に残し家出したジョスと、同棲相手に追い出されたファンファンは、マニュのアパートに転がり込む。ところがマニュの浮気が夫にばれて、行き場を失った仲良し三人娘は、レストランで出会った金持ちの男の家に居候を決め込む。つかの間とはいえども自由な生活を楽しみながら三人はそれぞれの男への復讐プランを練る…。
68年運動の一枚の写真に映っている人物の行方を追ったドキュメンタリー “La Reprise” とはがらっと雰囲気を変え、エルヴェ・ル・ルーのこの新作は、茶目っ気といたずらでいっぱいの春らしい軽喜劇になっている。娘に会いたいジョスの願いを叶えるために三人が仕組む誘拐プラン、マニュの夫のアパートに仕掛けられたいたずら、金持ちの家からの脱出などのシーンは、アメリカのアニメや喜劇映画、ジャック・タチの作品を彷彿させるが、ル・ルーの手にかかるとワンテンポずれた不思議な個性が加わり、男はともあれ女たちが自由奔放で元気に動き回る。見た後にこっちまでスキップしたくなるような…そんな作品。
● Nuage de Mai
配達されたばかりの郵便物を持って若い男がカフェのテラスに腰を下ろす。主人にコーヒーを頼みながら「大学の入学試験の結果が届いた」と言うと、当然ながら主人は結果を知りたがる。すると男は「まずコーヒーを飲んでから」とゆったり答える…。トルコ人監督ニュリ・ビルジュ・セイランのこの作品 (去年のベルリン映画祭でヨーロッパ批評家賞を獲得) では、すべてがこのようにゆったりと流れていく。もう一人の登場人物である映画監督は、若い男と同じ村に住む両親を訪ねる。そこで新作の案を練るうちに両親を出演させることを思いつく。両親は息子のすることは「お金になったためしがないがまあいいだろう」と参加を承諾する。試験に落ち撮影アシスタントになった冒頭の若い男は、「田舎は退屈だからイスタンブールに出て働きたい」と監督に相談するが、「何もしなくても生きていける田舎での生活は素晴らしいじゃないか」と説得される。今は亡きギュネイ監督の作品には、自分の運命を呪う人々の悲痛な叫びが隠されていた。セイラン監督は日常の煩雑を忘れぼんやりと空を流れる雲や風になびく草や木を見つめ直すことの大切さを教えてくれる。時代が変わった、ということだろうか。(海)