パリ市庁舎Hotel de villeのすぐ裏に、セーヌ川に面して、ギャラリーが併設された立派な建物がある。これがパリで活動するために外国からやってきた芸術家たちの住まい、Cite Internationale des Arts。ここに昨年末から暮らしている版画家の松林誠さんと奥さんの由味子さんからお誘いを受けたので早速訪ねてみた。 彼らの住まいは、シンプルながらもそこはやはり芸術家たちのための部屋なので造りがちょっと面白い。右手の壁は、画家たちが作品をピンで留めたり自由に使えるように合板だ。窓が大きく部屋全体が明るい。照明は壁に掲げた作品にスポットが当てられる造りなので、帰国の際などに自宅で展示会を企画する入居者もいるのだとか。 ベッドのあるプライベートな空間と他を仕切るように天井まで届く縦長のラジエーターは彼らのお気に入りのひとつ。「このラジエーターのおかげで温暖な高知にある自宅よりもずっと快適に冬を過ごせました」 室内にある掲示物のうち、特に目をひくのは窓に貼られた2 枚のレントゲン写真。渡仏する前に受けた健康診断の結果を2 人分仲良く並べているあたりがやはりアーティスト。由味子さんのさりげない気配りで、床や棚の上にちょこちょこっと植物や花が生けてあるのも素敵だ。 ここシテに住んでいるのは、ひと口に芸術家といっても画家、彫刻家、音楽家、ダンサーなどジャンルはさまざま。ここへの入居が決まっていれば、不案内なパリでの住居さがしに骨を折ることもなく早速自分たちの活動にかかれるし、他の入居者たちから色々な生活や制作活動に必要な情報も得られるので便利だ。 ただし、入居するためのハードルは結構高い。日本人の場合、たいがいが美大生やその卒業生で、大学が確保している部屋に、1 年ごとに行われる審査に受かった人のみ入れるといった様子だ。誠さんたちもその例にもれない。また、個人的に直接シテに入居を希望することもできるのだが、この場合にも厳しい審査があり、受からないと入居できない。「入居者の年代の幅が広いし、日本ではなかなか機会がない東欧のアーティストたちとコミュニケーションがとれるのも新鮮です」と誠さん。安全面もよいし、とても満足しているのだが、唯一の不満はお風呂がないこと。現在、ゆったりと浴槽に浸かれる区営の公衆浴場などはないだろうかと探しているところだとか。(里) *6月30日まで誠さんの版画の展覧会が開催されている。 *LeZard Cafe: 32 rue Etienne-Marcel 01.4233.2273 |
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アート専門の図書館がある。 誠さんと由味子さんのお気に入りのスポットは、シテからも建物の裏側が見えているくらいすぐ近くにある。中世の館のたたずまいを残すサンス館 (Hotel de Sens) に併設の図書館(Bibliotheque Forney) がそれ。「アート系、グラフィック系など美術雑誌が充実しているのでちょこちょこ行ってます」と誠さん。自由に閲覧ができ、パリ市内の住居証明で登録すれ ば図書の借り出しも可能だ。 図書館独特の静けさの漂う空間には、多くの閲覧者が美術書などに見入っている。壁には年代物の広告ポスターが貼ってあったりと他の図書館には見られない 温かみがあるのも特色のひとつ。アート専門の図書館をうたっているだけあり、絵画や彫刻、版画や建築の関連書だけでなく、セラミックや衣装、インテリアや タピスリー、テキスタイルなどの装飾美術、本の装丁や広告ポスターなどのグラフィック・アート、電気技術や左官工事などの職人技術にいたる関連書など合わ せて2 万冊以上の蔵書を誇っている。 ここではたびたび広告ポスターのエクスポジションが開かれており、年代もののキッチュな絵はがきが買えたりするのも魅力。日曜は休館するというのが残念だが、天気のいい日の散歩コースのひとつに加えたいおすすめスポットだ。 *Bibliotheque Forney : 1 rue du Figuier 4e 01.4278.1460 火~金 15h30-20h30 土10h-20h30 日・月休 |