ブルターニュ半島の北西、ペロス・ギレック市の沖合に浮かぶセット・イル諸島は、フランスで一番規模が大きい海鳥繁殖地として知られ、Conservatoire du littoral (沿岸域保全整備機構) を中心に、自然を守るための積極的な活動が行われている。この一冊は、昨年の冬と春に、その「七つの島」を何度か訪れた桑原実彦のスケッチと水彩による観察記だ。 「潮の匂いを吸い込み、私はすっかりこの地方の魅力にとらわれてしまった。柔和な光、憂愁をたたえた空気、私を迎えてくれた数え切れない鳥たち…」という鉛筆書きの文章を読んだだけで、ブルターニュを一度でも訪れた人は、ああ、あの光、あの空気、と心がドキドキする。 岩礁であたりをうかがうヨーロッパヒメウ、愛の舞を繰り返すオオカモメ、海草の間で餌をあさるダイシャクシギ、頭や腹を掻いたり昼寝をしているハイイロアザラシ、島の一端が真っ白になるほどのシロカツオドリのコロニー…、一瞬を撮る写真とはちがい、スケッチをしながらの時間をかけた優しい視線がある。 昨年12月「エリカ」号が難破し、その重油汚染で10万羽以上の野鳥が命を落としたが、こうした自然をかえりみない利益優先の論理に抵抗するためにも、この著者のように、自然を尊重しながら根気よく観察する姿勢が今まで以上に必要とされているようだ。(真) *Gallimard社発行 88F |