青年が歩いている。凍てついた冬だ。靴がもうボロボロで、足先が麻痺している… 主人公、ステファンを演じるロマン・デュリス(セドリック・クラピッシュの『青春シンドローム』や『猫が行方不明』で印象に残っている若手男優)が出だしから観る者を惹き込む…
第二の登場人物は得体の知れない初老の酔っぱらい、イジドール(良い味を出してる素人俳優)。彼のペースに巻き込まれ呑んだくれた次の朝、見知らぬ村の見知らぬ家のベッドで目覚めたステファンを、窓の外から、好奇と非難と恐怖が入り交じった沢山の目が睨んでいる…
亡くなった父が愛聴していたジプシー・ミュージックの女歌手を探して、ステファンはフランスからルーマニアまで旅して来たのだ。手がかりが掴めないまま旅を急ごうとするステファンを、息子のように可愛がり始めたイジドールが引き留める。言葉がいっさい通じない異文化の中に置かれたステファンは、これはヤバイことになったと一瞬焦る。が、生来ヒトの良いこの青年は、いつの間にかこのジプシーの集落の一員に…
ヒロインは、誰も手綱を引けないソヴァージュな娘、サビナ(ルーマニアの女優、ロナ・ハルトネール。美人!)。ベルギーで結婚していたが夫を捨てて出戻っている。仏語を少々解するのでステファンの通訳をおおせつかるが、最初は大反発、でも最終的に二人は恋に落ちる…
『Gadjo dilo』は、アルジェリア出身で独自のキャリアを積むトニー・ガトリフ監督の、『Les Princes』『Latcho Drom』に次ぐジプシー3部作の最終編である。異文化を双方向から許容することは世紀末の人類の命題である… なんて言っちゃうと気恥ずかしいが、そういうことを豊かに見せてる作品だ。音楽も◎。 (吉)