「映画はテーマより、その語り方だ」。確かに、問題意識をもって最新の社会政治問題をテーマに据える映画もある一方で、人間関係、青春、恋愛、生死といった人間の永遠のテーマは、全ての芸術分野で飽くことなく、人間の歴史と同じ分だけ繰り返し、テーマとされている。確かに、語り方につきる。その語り方によってテーマが観る、読む、聞く人の心を深く揺さぶる。その語り口が合う合わないといった個人の趣向もそこでは左右はするが…。
韓国のホン・サンス監督は、女好き既婚ダメ男と凜(りん)とした女性の淡い出会いや再会と恋愛感情を飽くことなく映画で語ってきた。冒頭の言葉は1月10日公開の同監督『夜の海辺で一人 / Seule sur la plage la nuit』の中に登場する言葉だ。今回は、不倫に疲れた女優の休業中の物語。後半になって彼女が浜辺で居眠りをしている時に見た白昼夢らしきシーンの中で、不倫相手の白髪交じりの映画監督に彼女は「あなたのように私的な話ばかりを映画にして何が面白いの?そんなの価値がない」とくってかかる。それを受けて前記の台詞が飛び出すのだ。
ホン・サンス監督の映画が口に合って追っかけてきた者は、このシーンに、この監督はマゾというか露悪趣味でありつつ懲りない性分なのだと変に感心してしまう。しかも今回の主演女優キム・ミニは、マジに実生活でのホン・サンスとの不倫が大きく報道されている中で、17年のベルリン国際映画祭で女優賞を獲得。そして多作のホン・サンスが17年に発表した3作品全てに出演している。1本は17年カンヌ国際映画祭のコンペ出品作で6月に公開された『翌日 / Le jour d’après』、もう1本は今年3月公開予定の『クレールのカメラ / La caméra de Claire』だ。
懲りない監督は、この先も似たような主題の映画を撮り続けてゆくだろう。そして懲りない観客(私もその一人)は、彼の語り口に酔うために彼の映画を観に通うであろう。(吉)