Q:里心がついてきてしまった?
内藤:そうですね、何か。先が見えへんっていうか、何も考えずに来て、何も考えずにいちゃうと、「あれ、いつ私日本に帰るんだろう?」という流れでいるので「このまま一生フランスにいるんかな?」と思うと「違う」という気はします。
Q:でも例えば、自分のお店を持つとか、するとまあお菓子屋さんというかティーサロンという形になるかもしれないけれど、そういうことは?
内藤:そういうイメージはまだ湧いていないかな。
Q:自分のお店をもつということ?
内藤:そうですね。レストランで働きたい気持ちが大きいので。まだもう少しレストランでできればいいですね。まあいつか、もっと後に自分のお店を、という気持ちはなくはないです。でも何が起こるかわからないですから。
昔はパティシエが前に出ていなかったけれども、ここ何年か前からパティシエの存在が目立つようになってきた。
Q:確かにパティシエや料理人についてのテレビ番組も人気だし、ここ数年で「料理」全体が一般の人に身近なものになった。だからこそ料理人たちが一般の人たちとはさらに違うものを作らなきゃならないという高いハードルができてしまった、ということでもありますよね。
内藤:うちの店ではシェフが前に出ろ、と言ってくれるんですけれど私自身がとても人見知りがあるので、出たくないわけじゃないんですけれど、引っ込み思案っていうか
Q:出るというのはお客さんに対して?
内藤:お客さんに挨拶したり、あとはメディアにも私のことをもっと出していきたいと思ってくれているみたいです。だから地元の新聞にも取材されたりしたんです。…嬉しいんですけれどね、人見知りがあって…なかなか大変で…
Q:でもこうして話しているとそんな印象はないし。
内藤:まあ、そうですね。何でやろう、フランス人から取材されると、ということかな?
一対一だからですかね、こうして喋れるのは。いっぱい前にいると難しいのかもしれないです。新聞の影響で、日本が好きという高齢の方が食べにきてくださったりするんです。新聞を見て来ました、という方が片言の日本語で「オイシイデシタ」と言ってくださる。そういうの、本当に嬉しいですよね。
Q:自分が日本人だと意識してデザートを作ることはありますか?例えば先ほどコーヒーと一緒に出していただいた抹茶のサブレとか?
内藤:そうですね、日本のものを使ったりはします。まあ知っている食材というのは使いやすいですし。私がメキシコ人だったら、たぶんメキシコの食材を使ったりするんやろうな。自分が美味しいと思うものは、自分が知っているものですからね。
Q:そういえば、オリヴィエさんはお料理に柚子を使っていましたね。
内藤:どこのシェフも最近はそうですけれど、彼も日本の食材を使ったりしますね。出汁をとったりもするし。だからといって私が日本のお菓子を作るわけにはいかないので、そのバランスをどう取るかということですよね。
Q:2ヶ月前に取材させていただいたパリの11区のお店で、びっくりするほど美味しいほうじ茶のアイスクリームをいただきました。シェフは日本人女性とアルゼンチン人の男性で、デザートのほとんどをアルゼンチン人の男性が作っていると聞いてさらにびっくりしたんです。だから未央さんもメキシコの食材が好きだったら、メキシコ人を唸らせるようなデザートを作ってもいいかもしれない。
内藤:そうですね、面白いですね。逆に日本人やから日本の食材はこう使うものだ、と思っているところはあるんです。シェフを見ながら「えっ、出汁ってこんなところに使うの?」と私が思うこともあるし。
Q:それはおそらく作り手が美味しいものを判断する自分の舌を信じているから、私たちが「えっ!」と思うような突飛なことができてしまうんでしょうね。固定観念がないからこそできる。
内藤:私は結構あるなあ。私はアーティスト気質じゃないので、難しいですね。
Q:でも今日のデザートからも「わー!」と素敵な驚きをいただいたので、これからも色々と。何はともあれ、一番大切なのは美味しいことですよね。
内藤:もちろんそうです。味はね、美味しくないものは出せないです。
Q:さて、皆さんに最後に質問していることがありまして、それは「お料理って何でしょう?」ということですが、未央さんにとってはお料理でもお菓子でもどちらでも、ということで質問させてください。未央さんにとってお菓子とは何でしょうか?
内藤:デザート?それってすごく難しい質問ですね(笑)。
Q:皆さんにいつも言われます。そんなに堅苦しいことではなくて、例えばデザートと未央さんの関係というのは?ということです。
内藤:私はそれしかしてこなかったのでね… それしかない、です。
Q:じゃあデザート、お菓子がなかったら?
内藤:なかったら私じゃないんじゃないですか。
Q:ちなみにお家でも作ったりしますか?
内藤:しますね。時間が許せばパン焼いたりとか 。そんなに滅多にないですけどね、お招ばれしたときに作ったり。
Q:お家にも色々な道具が揃っている?
内藤:大したものはないです。それこそパンも手でこねたりしますから。まあ一応ちょこちょこ、と。楽しいです。
Q:お仕事している時って、無心になっている?
内藤:なってないですね。すごく頭が大きくなっています。
Q:どういう風に?
内藤:仕事のことだけですが、色々なことを考えています。私、家でも仕事のことしか考えていないからなー(笑)うーん。お菓子のことしか考えていないですよね、基本。ずっと考えていますね。旦那にも「またお菓子のことを考えてるでしょう、他のことを考えれば?」ってよく言われます。
Q:好きなんだから仕方ないですね。お菓子を未央さんから取り上げたら、一体どこのどなたですか?ってことになる。
内藤:そう、そういう感じですよね。学生でお菓子の勉強を始めてからずっと関わってきたので、ね。
Q:でもまだお若いし、30歳ですよね。もう少し走れるだけ走ったらブレイクするのもいいかもしれないですね。旅行したり。
内藤:でも今が、これから何をしていかなきゃあかん、って考えなきゃいけない時かもしれないです。家庭のこと、家族のことなど。お菓子ばっかり作っていると、そのことで頭がどんどん大きくなって、他のことが入ってこなくなるんですよ。やっぱり家族がいるとどうしても考えなきゃならんし、世話もしなきゃならんし、それって逆に仕事にもいいんじゃないかと
Q:まあ、自分の中でバランスが取れるかもしれないですね。
内藤:ね。私は仕事のことを考え出すと爆発しそうになるんです。
Q:頭から火が出る感じ?
内藤:そう。仕事以外のことを考えるってたぶん大事なんやろうな、と思いますね。
Q:でもそれだけ好きなことが仕事になったのはいいですよね。
内藤:そうです。好きじゃないとやっていても意味がない。でも好きすぎるとね、いつか嫌いになる時が来るような気がする。
Q:そうしたらまた別の「好きなもの」を見つければいい。
内藤:そうですね。
Q:楽しいお話を、ありがとうございました。
L’ODAS (内藤さんがパティシエとして働くお店)
Adresse : Passage Maurice Lenfant, 76000 RouenTEL : 02.3573.8324
URL : www.lodas.fr