ルソーの静かな食卓 〈1〉

 ジャン=ジャック・ルソー(1712〜1778年)は、18世紀のフランスを舞台に活躍した異端の思想家だ。ヨーロッパ中でベストセラーになった恋愛小説『新エロイーズ』(1761年)、自由な社会について論じた『社会契約論』(1762年)、独自の教育論が注目を集めた 『エミール』(1762年)といった大作は、当時の社会に衝撃を持って迎えられた。多分野にわたる執筆の核になっているのは、人間、そして動植物が本来持つ「自然」の力を尊重する考えだった。

 スイスのジュネーヴ出身のルソーが、懸賞論文「学問芸術論」をきっかけに世間に注目されるようになったのは38歳のこと。それ以後、作家としてだけではなく、音楽家としてもオペラを創るなどして成功を収めたものの、その生涯には常に 「孤独」がつきまとった。自伝 『告白』(1770年)や遺作となった『孤独な散歩者の夢想』 (1778年)には、世間との折り合いをつけることが出来ずに苦悩するルソーの姿が浮き彫りにされている。友人との決別も、幾度となく繰り返された。

 そんなルソーの食風景には「静」の文字がよく似合う。幼い頃から貧困の中で育ったことも理由なのか、社交界に馴じむことは終生なかった。貴族の家でくり広げられる豪奢な晩餐よりも、森の中でもぎたての果実をかじっている方が性に合っていたのだ。ルソーは 『エミール』にこう書いている。「わたしは傲慢でいばりくさった人間になるよりはむしろ官能の喜びをもとめ、快楽にふける人間になるだろうということ、そして、人にみせびらかすぜいたくよりはむしろ遊惰なぜいたくにうちこむにちがいない」(今野一雄訳)。一見ストイックなルソーにとって、節制と快楽は相対するものではなく、むしろ、深く結びついているものだったようだ。(さ)

「ジャン=ジャック・ルソーが暮らしたモンモランシーの家」の記事では、ルソーが6年間すごしたパリ近郊の家を取材。台所の写真も見られます。

 


 

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