「世界のミフネ」は生涯に一本だけ映画を撮った。しかし、周囲に気を遣い過ぎる性格ゆえ「監督には不向き」が定説だ。三船敏郎の唯一の監督作が、製作から半世紀を経てフランスで初公開される。この機会に、悪評は無視して、積極的に楽しんでほしい力作だ。
戦後20年。フィリピンの山奥には日本軍が隠した金貨が眠るが、ありかを知るのは元少佐の松尾(三船敏郎)のみ。戦中の知り合いで、会社社長の郡司(仲代達矢)は、財宝探しの協力を松尾に要請し、他の男4人と異国へ送り込む。
道なき道を進む探検隊。互いに疑い・疑われ、敵味方も入れ替わる心理サスペンスで、なかなかどうして見応えがある。愚直な三船VS妖気漂う仲代の名優対決から幕開け、冷徹な郡司の弟役の三橋達也や、ニヒルな青年役の山崎努まで俳優陣も豪華だ。
タイトルの「50万人」とはフィリピンで戦死した日本兵の数。金の猛者ばかりがうごめく中、松尾だけは「金貨を遺族に返す」という崇高な意志を持つ。この律儀な愚直キャラは三船本人と重なり、キレイ事さえ妙に説得力が加わる。
43歳で主演・監督をこなした三船プロ第一回作品。その前後には『用心棒』と『赤ひげ』でベネチア映画祭主演男優賞を獲得し、やがて外国映画にも出演。1960年代、それは三船にとって向かうところ敵なしの輝かしき時代。しかし、本作は驚くほどペシミストな世界観。これも観客に対するある種の誠実さゆえか。冒頭からフィリピン政府への長い謝辞を挿入、また、自身が出演したCMの錠剤を登場させたのも有名な面白エピソード。大スターらしからぬ徹底した律儀ぶりが、妙に愛おしい。
さて、今月は青春音楽アニメ『リズと青い鳥』(4/17公開)、超話題作の『カメラを止めるな』(4/24公開)と邦画の公開が続く。(瑞)