
10月19日、パリのルーヴル美術館に4人組の強盗が押し入り、19世紀のフランス王家の宝飾品を奪って逃走。警備体制の不備を批判する声が噴出した。25日、仏人と仏アルジェリア2重国籍の30代男性2人がパリ郊外とロワシー空港で逮捕された。2人は窃盗の前科がある。ただし、宝飾品は見つかっていない(10/28現在)。
19日9時30分頃、ルーヴルのセーヌ側ドノン翼東端2階にある仏王家の宝飾品の展示室に、リフト付クレーン車で外から侵入し、ディスクグラインダーで窓を破って犯人4人が侵入。強化ガラスケースを壊して宝飾品を奪って逃走した。盗まれたのは19世紀のマリ=アメリ王妃らのサファイヤとエメラルドのティアラ、首飾りやイヤリング、ナポレオン3世妃ウジェニー皇后のダイヤモンド2000個をちりばめたティアラなど8点。犯人は物音や警報を聞いて駆けつけた警備員をグラインダーで脅し、クレーンを降りてスクーターで逃げた。警備員が追いかけたため、ダイヤ1354個、エメラルド56個をちりばめたウジェニー皇后の冠は路上に落ちて難を逃れた。わずか7分間の出来事だった。被害総額は8800万€。この盗品はそのままでは売れないため、分解されて売られれば歴史的な価値は失われる。
この事件を受け、ルーヴル勤務者の労組は「ルーヴル経営陣の責任は非常に重い」とした。組合はかねて保安や安全に関わる職員がこの10年で25%減少し、作品や入場者を監視する機器が刷新されていないと批判。安全面の監査を行い、監視員の増員を図るよう要求した。11月に公表される予定の会計監査院の報告書も監視・警報システムの遅れを指摘していると仏紙も報じている。それに対し経営陣は、1980年代の機器が時代遅れになっているのは認識しているが、刷新計画は今年以降に延期されたという。こうした批判はロランス・デ=カール館長とダチ文化相に集中し、館長は22日に上院の文化委員会で聴取を受けた。館長は、2021年から建物の劣化や古いインフラに警鐘を鳴らしてきたとし、建物内の防犯カメラはすべて作動しているが、屋外にはカメラがないため、対応が遅れたことを認めるとともに、館内に警察署を設置することを提案した。この提案に対してニュニェーズ内相は反対の意向を示した。
極右の国民連合(RN)のバルデラ党首は「わが国への侮辱」「国の崩壊はどこまで進むのか?」、共和党幹部のヴォキエ氏は「最も貴重なもの “歴史”が盗まれた」と強い言葉で非難。こうした政治に利用しようとする過度な反応に、ル・モンド紙の論説は、訪問者にさほど見向きされない19世紀の宝飾品は大金庫にでも入れないと守るのは難しい「お荷物」でもあり、人はそんな厳重警戒態勢のなかで美術品を鑑賞したいだろうかと疑問を呈している。(し)
