ヴェルサイユ、共和政のシンボルを見てあるく。

きらびやかな「鏡の間」、礼拝堂、劇場、オペラ、離宮、広大なフランス式庭園…。ヴェルサイユは年に900万人が訪れるフランスきっての観光地。革命で王政が倒され2世紀以上経った今でも、ルーヴル美術館、エッフェル塔、ディズニーランドなどと人気の首位を競いあう名所だ。王妃マリー・アントワネットの肖像画をあしらった小物はこの町の土産の花形商品となっている。
とはいえヴェルサイユは、共和政の象徴でもある。今年は第三共和政の憲法が制定されてから150年にあたり、宮殿内にある国民議会と上院が合同会議を行う「コングレ」議事堂や、その議長の旧アパルトマン、ド・ゴール大統領がグラン・トリアノン内に設けた旧官邸など、共和政の歴史が刻まれた場所が特別に公開されている。
昨年、両院合同会議で妊娠中絶の自由を憲法に明記することが決められたのもヴェルサイユ宮殿内の議事堂だった。2023年秋、鏡の間に英国王チャールズ3世を迎えて晩餐会が行われたのも記憶に新しい(その費用47万5000ユーロ=7700万円も!)フランスへの投資を促すための国際会議「Choose France」も先月開かれたばかり。王政や共和政のシンボルがモザイクのようにひしめき合う、ヴェルサイユの街を歩いてみた。(集)

共和国のシンボルとしての、ヴェルサイユ。

ヴェルサイユにある議事堂。
ー Salle du Congrès
今日この議事堂を使うのは、憲法改正の審議のために国民議会と上院が招集される両院合同会議か、大統領が両院議員に対して演説を行う時。1875年から1953年の間は、ここで両院の議員たちによって16人の大統領が選出された。上院、国民議会よりも大きい1500席。共和国のシンボルでありながら、ルイ14世太陽王のシンボルが配されていたりする。まだ共和政が不安定であった時代を象徴するかのようだ。

9月いっぱい見学可能。入場券とガイド付き見学のチケットが必要。90分間。
土日祝日は自由見学とガイド付き見学 9h-18h30。平日はガイド付見学のみ。

第三共和政の誕生。

1789年の大革命から1870年まで、フランスは王政、帝政、共和政と、7回もの政変を経験した。1870年も動乱の年で、普仏戦争でナポレオン3世が囚われ第二帝政が崩壊すると、フランスでは 「国防政府」が共和政を宣言。指導者のアドルフ・ティエールがプロシアと講和条約を結ぶと、事実上は降伏であることに反対する市民が蜂起した。ティエールがいったん政府軍をヴェルサイユに撤退させると、パリ市民は自治政府パリ・コミューンを宣言。しかしティエールはこれを武力で鎮圧し、市民3万〜4万人が殺され、4万人がヴェルサイユのサトリー地区に投獄された。
その後ティエールは第三共和政の初代大統領となったが反対派も多く、1873年には解任。次期のマクマオンが憲法を制定した。第三共和政は1940年まで、70年間続いた。

ルイ15世のオペラハウスが上院議会に。
ー Opéra Royal
1875年から、上院はヴェルサイユのオペラハウスに置かれた。690人の議員が入れるようオーケストラボックスにも床を張って椅子を置き、18世紀の天井をガラスに置き換えた。今でこそ小ぢんまりした感のあるオペラ・ロワイヤルだが、アンジュ=ジャック・ガブリエルの設計で1770年に竣工した当時は欧州最大の劇場。歌劇場はルイ14世の念願だったが気に入る設計案がなく、結局ルイ15世が着位してから建築家をイタリアに派遣し、当時の先端技術を取り入れた劇場を視察させ建設。1950年になって上院がヴェルサイユ宮殿に返却。今ではバロック音楽を中心に、オペラ、バレエなどを上演。
公演プログラム : www.operaroyal-versailles.fr/programmation/

憲法改正の蝋印を押す部屋
ーSalle du sceau

両院合同会議で憲法改正が決まると、その文書に大統領、首相、法相、該当大臣らが署名し、 共和国の蝋印を押す。2024年3月4日に 「妊娠中絶を行う保証された自由」を憲法に明記する法案が成立した時も、憲法34条が改正された文書に蝋印が押された。両院合同議会と隣接しているが、こちらは見学不可。
コングレ議長アパルトマン
ー Appartement du président du Congrès

後にルイ18世となる、ルイ16世の弟が住んでいたアパルトマンの跡に、コングレの議事堂と同時に1875年に造られた。コングレの議事堂とともに、週末見学可。平日の場合はガイドつき。
◉ヴェルサイユ宮殿への行き方:
Château de Versailles ヴェルサイユ宮殿:
住所:Place d’Armes 78000 Versailles

開館時間:
宮殿 :月休、9h – 18h30 / トリアノン : 12h – 18h30 / 庭園 Les Jardins : 毎日7h – 20h30
交通:RER-C線Versailles Château Rive Gauche駅下車 。駅から城まで徒歩10分。
SNCFモンパルナス駅からVersailles Chantiers駅まで約15分。駅から徒歩約15分。
またはSNCFサンラザール駅からVersailles Rive Droite駅まで約30分。徒歩約20分。
革命前夜のヴェルサイユへ

1 rue de Salle du Jeu de Paume (ヴェルサイユ宮殿からは徒歩10分ほど)。火〜日、12h30 – 17h30 (入場17hまで)。入場無料。※6/20 は臨時閉館。
「球技場の誓い」の舞台
ー Salle du Jeu de Paume
数ある史跡のなかでも、ここのように、250年前の熱が今も伝わってくる場所は少ないだろう。1789年5月5日に召集された三部会が決裂した後、第三身分の議員たちが自分たちだけで「国民議会」を立ち上げたことに王が怒り、彼らを三部会の議場に入れなくした。そのため、第三身分の議員たちはこの球技場になだれ込み、憲法制定まで解散しない!と誓った、有名な「球技場の誓い」場所だ。大改修を経て2022年から無料で公開されている。球技場に入ると、正面にダヴィッドの「球技場の誓い」の絵が架かっていて臨場感がある。自分も議員たちとともに、歴史を動かしているかのような感慨に浸れる。
ルイ16世は行き詰まった国の財政を立て直そうと「三部会」を召集。それまで特権階級への課税などを提案していたものの特権階級の反対に遭い改革が進められずにいた。三部会にあたっては全国各地の議員たちが、それぞれの地域から意見や要望が書かれた陳情書を携えヴェルサイユへ上京。陳情書の数は6万件にのぼったという。
ところが三部会は決議の仕方で意見が対立。第一身分の聖職者は291名、第二身分の貴族は285名、第3身分の平民は578名。第三身分は議員ひとりにつき一票を主張し、第一・第二身分は、身分につき一票を主張した。これだと第一と第二身分は大抵同じ意見で、第三身分は違う意見のことが多く、2:1で負けてしまうのだ。どちらも譲らず三部会は機能不全に陥り、第三身分は自分たちこそ国民の代表だとして6月17日に 「国民議会」を発足させた。こうして一歩一歩、革命に近づいていった。
〈ジュ・ド・ポーム〉はテニスの祖先といわれ、17世紀、王族男子の教育に欠かせないものだったという。この球技場はルイ14世がヴェルサイユに移住してから4年後、1686年に建造された。主治医から、この球技を勧められていたそうだ。
Salle du Jeu de Paume (サル・デュ・ジュ・ド・ポーム )
1 rue de Salle du Jeu de Paume (ヴェルサイユ宮殿からは徒歩10分ほど)。
火〜日、12h30 – 17h30 (入場17hまで)。
入場無料。※6/20 は臨時閉館。
サイト:www.chateauversailles.fr/decouvrir/domaine/salle-jeu-paume
ルイ14世の離宮は迎賓館と大統領官邸に。
ー Trianon-sous-Bois

1687年に建てられた 「グラン・トリアノン」は、ルイ14世が宮廷の喧騒を逃れ、家族と過ごした離宮。平屋の宮殿の窓からは珍しい花が次々と咲く庭を鑑賞できるという。1963年からド・ゴール大統領は大工事を施し、南の翼に迎賓館を、北の 「トリアノン・ス・ボワ」翼には大統領の住居と執務室を整備。米ケネディ大統領、イランのパーレビ国王ら、多くの賓客を迎え入れた。警備の事情により、ミッテラン大統領が露エリツィン大統領を招いたのを最後に、迎賓館としては使われなくなったが、ド・ゴール大統領の空間は当時の雰囲気そのままを見学できる。

Trianon-sous-Bois (Grand Trianon内):
週末は自由見学、平日はガイド付き見学。
12€/8€ (同チケットでプチ・トリアノン、「王妃の村里」と庭が見学可)。
月休、12h-18h30。18歳未満無料。
三部会が開かれた場所 ー Hôtel des Menus-Plaisirs

Les Etats Généraux à l’Hôtel des Menus Plaisirs
三部会が開かれた、「オテル・デ・ムニュ・プレジール」入口。ここで、8月4日に封建的特権の廃止、8月26日には、「人間は生まれながらにして自由であり、権利において平等である」という人権宣言を採択。王政を覆した。建物は1741-48年に建造され、宮廷の饗宴、オペラ、演劇などに使う美術品や小道具を置く場所だった。現在はヴェルサイユ・バロック音楽センターになっている。ジュ・ド・ポーム球技場までは歩いて10分ほど。第三身分の議員たちのように変革の意志を抱いて熱く歩いてみよう。

Hôtel des Menus-Plaisirs:
(Centre de musique baroque de Versailles):
22 avenue de Paris 78000 Versailles
首相別邸が、サルコジ政権から大統領の別荘に
ー La Lanterne

陽光がたっぷり注ぐことから lanterne と呼ばれる大統領の別荘は庭園南端、サン=シール・エコールへ伸びる県道10号近くにある。南仏ガール県にある地中海に面した夏の別荘ブレガンソン要塞と違ってパパラッチも近寄れず、文化遺産の日も一般公開しない。ドゴール大統領が首相のために整備したものだが、サルコジ大統領が〈大統領の別荘〉にした。マクロン大統領も家族とよく週末を過ごすという。 非公開。
オヴニーおすすめビストロ
ー Le Voltaire(ル・ヴォルテール)

右岸に比べ、観光客も少なく落ち着いたヴェルサイユ左岸。住人が通う、音楽もなく、静かないいお店。アンドゥイエット、フォーフィレなど超定番が20ユーロ前後。3.30€のボルドーのグラスワインまでおいしいのです。
Le Voltaire :
14 Rue Royale 78000 Versailles
Tél : 01.3950.3102 日休。月〜金 : 7h-20h、土 : 8h30-18h。



