
在仏アメリカ大使館がフランス企業数十社に、「DEI」(多様性、公平性、包括性Diversity, Equity and Inclusion)の取り組みをしていないという保証を求める書簡を送ったと経済紙レゼコーが3月28日に報じた。仏政府は米国の干渉は受け入れられないと強く反発した。
この書簡では、就任後すぐにトランプ米大統領が署名した、DEIプログラムを終了する「大統領令14173号」は連邦政府の機関に商品やサービスを納入するあらゆる業者に適用されるとし、DEIを推進するプログラムを実践していないとの回答を5日以内に返送するよう仏企業に求めている。米国では2023年に連邦最高裁判所がマイノリティの志願者を大学に優先的に入学させるシステム「肯定的差別(positive discrimination)」を憲法違反と判断したのに呼応するかのようにDEI反対派が勢いを持ち、トランプ氏はDEIは労働や個人の優秀さ、成功といったアメリカの伝統的価値を否定するとして先の大統領令を出した。
仏企業に米政府の価値観を押し付けるこの書簡について、ロンバール仏経済相は「このやり方はアメリカの新政府の価値観を反映している。それはわれわれの価値観ではない」と反発。サン=マルタン貿易担当相は「仏企業の包括性の方針へのアメリカの干渉は受け入れられない」と書簡を非難し、仏企業に妥協しないよう呼びかけた。経営者団体「フランス企業運動(Medef)」のパトリック・マルタン会長も仏企業の包括性に関する規則を放棄するのは「問題外」と強く反発した。フランスでは米国のような肯定的差別に関する法律はないが、250人以上の企業では取締役会の40%以上は女性であることや、政治における男女同数法、障害者の雇用などが義務づけられている。
レゼコー紙によると、米大使館の書簡を受け取ったのは数十社だが、主にエネルギー、薬品、通信、コンサルティング、高級品の部門だという。また、フランスのほかにもイタリア、ベルギー、スペイン、東欧諸国の企業が同様の書簡を各国の米大使館から受け取ったと報じられている。米国ではトランプ氏の大統領就任前後からすでにウォールマート、ワーナー・ブラザース、ペプシなどがDEI政策を変更した。大使館など米連邦政府関係の取引が対象なので、フランスに大きな実害はないかもしれないが、こうした心理的圧力は一定の効果を上げるかもしれない。平等の推進に逆行する倫理的価値観を外国に押し付けようとするトランプ政権のやり方には唖然とするしかない。(し)
