フィリップ首相は2月26日、仏国鉄(SNCF)改革に関する政府方針を発表するとともに、改革をオルドナンス(政令)によって行うとした。「国鉄職員」という資格の廃止に強く反発する労組は改革が国鉄の民営化につながるなどとして、強硬な抗議姿勢を打ち出している。
政府の諮問でスピネッタ元エール・フランス会長が15日に提出したSNCF改革案を示した報告書では、列車運行を担う 「SNCFモビリテ」と鉄道インフラの「SNCFレゾー」を商工業的公施設法人(EPIC)から株式会社に転換、赤字路線の整理、鉄道市場開放の準備、「国鉄職員」資格廃止、貨物事業の子会社化などが提案された。首相は大筋でその提案を政府方針に取り入れたが、SNCFは「公的資本による国営会社」とし民営化の可能性を否定。赤字路線の整理は却下した。
改革の焦点の一つはEU鉄道市場開放準備だ。フランスでは2021年から鉄道輸送市場自由化が予定されている。すでに貨物輸送は03年から開放され、民間企業の参入でSNCFは40%の市場を喪失した。09年からは国際列車が開放され、19年末からは中距離 ・地方鉄道の開放が始まり、地域圏と国が21年から入札を始める。このため、EPICから公的資本の株式会社に転換し、赤字を累積できない組織にするのが不可欠と政府は説明する。
全従業員14万5千人のうち、13万人を占める国鉄職員の資格廃止も重要な改革だ。国鉄職員には経済的理由による解雇はなく、定年も運転士50歳、事務職55歳(2024年までにそれぞれ52歳と57歳に)と民間の62歳よりはるかに有利で、退職者も含めて切符はほぼ無料などの特典がある。新規雇用からとはいえ、有利な待遇がなくなるのは職員にとっては痛手だろう。
今後、SNCF幹部や労組との協議が行われるが、並行して3月半ばにはオルドナンスによる関連法改正を可能にする法案を国会提出、夏前にはほぼ改革の目途がつくような日程を政府は立てている。黒字のモビリテに比べ、レゾーは年30億ユーロの赤字の累積で2016年末の赤字総額は450憶ユーロ。そんな状況で投資はTGV路線に偏り、他の老朽化した鉄道インフラの整備が追い付かず、昨年末には故障や遅れが頻発して利用者の怒りを買った。改革がどういう方向に向かうのであれ、赤字体質にメスを入れて経営を健全化することだけは必要だろう。(し)