Château-atelier de Rosa Bonheur
ローザ・ボヌール(幸せのバラ、本名マリー=ロザリー・ボヌール)という麗しい名の女性は19世紀、最も名を馳せた画家の一人だ。 官展サロン・ド・パリへの出品作が20代で注目された彼女は、英米など海外でも人気を博し、テオフィル・ゴチエやヴィクトル・ユーゴーを感嘆させた。
1859年、話題作『馬の市』の売却で多額の収入を得たローザは、フォンテーヌブローの森に近い城を購入する。アトリエを設け、敷地にはたくさんの動物を飼い、盟友ナタリー・ミカとその母親と一緒に住んで絵を描き続けた。
天職と決めた芸術で自活し、生涯結婚せず子どもも持たず、女性と動物たちとの共同生活を送った非凡な画家の存在と作品は、死後100年近く忘れられていた。
生誕200年にあたる2022年は、大規模なローザ・ボヌール展覧会がボルドー美術館とオルセー美術館で企画された。動物の「視線」や自然の息吹を捉えるローザ特有の写実絵画には、現代のエコロジスト(環境保護・動物福祉)の視点を見出せる。
また、女性を家庭に閉じ込めた時代に経済的独立と自由な精神を実践したその生きざまにおいて、フェミニズムの先駆者と再評価されている。その類い稀な存在の秘密に触れたいと、ローザが自分の神殿と呼んだアトリエに足を運んだ。(飛)
Rosa Bonheurの城アトリエ
ローザ・ボヌールをたずねて。
ローザ・ボヌールが40年間、亡くなる1899年まで住んだ城はパリから南南東に約75km、フォンテーヌブローの森の端、トムリにある。15世紀に遡る館の中に、ローザは天井の高い大きなアトリエを造らせた。青い仕事着とズボン姿で絵筆を握る、白髪のローザの肖像画(遺産相続人になった友人アンナ・クランプケ作)が見学者を迎える。
タブローや彫刻などローザの作品、画材、当時の家具・道具、彼女が飼った動物たちの剥製がそのまま残るアトリエには、19世紀の仕事場の空気が漂う。ローザのポートレート写真と初期のカメラにも目を引かれる。モデル (主に動物)を正確に描写するために、彼女は自ら撮影 ・現像した写真や絵葉書も利用した。
ボルドーで生まれたローザは画家の父と音楽家の母のもと、自然の中で遊び、ピアノやデッサンを楽しむ幼年時代を過ごした。ところが、パリに移住した一家は貧困に陥った。サン=シモン主義に傾倒した父親は家庭を放棄し、生計を立てるために働き過ぎた母は、ローザが11歳の時に病死する。
このトラウマゆえ彼女は結婚と出産を拒み、経済的・精神的独立を求めた。画家になろうと父から絵を習い、ルーヴル美術館の名作の模写に通い始めたローザは、模写を売って14歳から家計を支え、画業や彫刻に励んだ。
芸術に人生を捧げることを使命にしたローザは、「巫女 (ウェスタの処女 : 古代ローマで女神ウェスタに支えた)」に自らを重ねる。アトリエはその「神殿」、仕事場であると同時に、幼くして死別した敬愛する母親に自分を繋げる場所だったのではなかろうか。
ローザの絵に際立った特徴は、写実の驚くべき精密さと共に、動物の視線を捉えて描き出すことだ。動物に魂があり、視線に感情が表されていると彼女は信じていた。一方、農耕や放牧の情景に登場する人間は、常に脇役である。ローザは庭師やマネキン人形を人物モデルにして、羊飼いや農民の服を着せた。
自然と生き物に対するローザのアプローチはアニミズム的(霊的)で、生き物は尊厳を帯びる。フォンテーヌブローの森を毎日歩いて素描し、動物たちに囲まれて絵を描く暮らしがローザの楽園だった。ナタリーは画業の助手を務めるほか、ローザのキャリアと城の財政の管理や実務に携わった。
ナタリーの死後、晩年に出会ったアンナがローザの伝記を書き、業績とお城を保存した。 2017年にお城を購入したカトリーヌ・ブローと彼女の娘たちは、修復と史料の研究を進めて、この場所に新たな息吹を与えた。女性たちによって、ローザの凛々しい魂は現代まで受け継がれている。(飛)
ティーサロンでは、軽食、ケーキ類、紅茶・カフェなどが位置情報は記事の後に。
宿泊(シャンブル・ドート)は、3部屋(スイートルーム) 350€ / 1泊
夏にはフェスティバルが開催され、コンサート、アートパフォーマンスなどが行われる。
オルセーのローザ・ボヌール展
ボルドーとオルセー美術館、ローザ・ボヌール城の共同企画による回顧展では、この画家の代表的な大型絵画、ピレネーやスコットランドの自然を背景にした作品や動物の肖像画に加え、水彩画、素描、カリカチュアなど多様な創作を鑑賞できる。
独自のアングルや構図も使った数多くの習作を通して、ローザは動物のさまざまなポーズを緻密に研究した。じっくり観察できるように、敷地でライオンのつがいを飼ったほどだ。動物の視線・表情や、自然と調和的に存在する彼らの佇まいに、ローザの世界観が表されている。
『馬の市』では逆に、馬への人間の非情な扱いが告発されているようだ。ローザは1889 年、興行で来仏したバッファロー・ビルとアメリカ先住民に出会い、親交を深めた。未完の遺作 『火事から逃げる野生馬』では、躍動感に溢れる馬が自由の象徴のようにキャンバスを駆ける。
● Musée d’Orsay
Rosa Bonheur (1822-1899)
2023年1月15日まで
Château de Rosa Bonheur
Adresse : 12 rue Rosa Bonheur, 77810 By-Thomery , FranceTEL : 09 87 12 35 04
アクセス : リヨン駅からR線 (Montargis行)Thomery駅 徒歩15分
URL : https://www.chateau-rosa-bonheur.fr/
ガイドつき見学、要予約 水〜日10h30-16h30 17€ (割引10€) Navigo Culture 15€