英気がよくなると、重い革靴やスニーカーを脱いでバレリーナシューズ (ballerine)を履きたくなる。柔らかく足にフィットし、軽くて歩きやすいので女性に大人気。日本でも定番商品だ。パリ・オペラ街のレペット本店に行くと、バレエシューズ、チュチュといったダンスアイテムはもちろん、レディースウェア、バッグなどの革製品、靴、香水などの様々な商品がクラシックバレエっぽい雰囲気に統一されレイアウトされている。服やバックなどはほとんど欧州他国、チュニジアで生産されているが、看板商品のバレエシューズとバレリーナシューズはドルドーニュ県で作られていると聞いて、はるばるアトリエを訪問した。
レペットは、有名なバレエダンサー・振付家、ローラン・プティの母親ローズ・レペットさんが1947年にバレエシューズのアトリエをパリに設立したのが始まり。59年にはパリ・オペラ座の近くに店舗を開き、世界の一流ダンサーのご用達となった。ブリジット・バルドーから、街で履けるバレエシューズの製作を頼まれて56年に誕生したバレリーナシューズ「サンドリオン」は、今でも女性の圧倒的支持を得ている。パリのアトリエ焼失のため、ローズさんは67年、革製品産業の盛んだったドルドーニュ県のサン・メダール・デクシドイユにアトリエを開いた (現在は拡張されて8000m2)。しかし、ハンドメイドの靴作りは採算が取れず、赤字が累積。1999年にリーボック・フランスの元経営者ジャン=マルク・ゴシェ現社長がレペットを買収し、ブランドの高級化と商品の多様化、有名デザイナーとのコラボレーションによる新商品開発で、会社を再建した。
レペットのシューズのノウハウの要は何といっても、トウシューズの製法から応用した 「cousu-retourné (ステッチ & リターン)」という製法だ。靴底の革 (子牛・子羊)に段差を入れ、その部分と足を覆う部分の革/布をミシンで縫い付けてから全体をひっくり返す。こうすると接着したのとは違って非常に丈夫で、しかも靴底の革も一枚なので柔らかで履き心地もいい。「これは他の企業にはまねできない独自のノウハウ」とゴシェ社長は胸を張る。バレリーナシューズ (日産1500足)の製造工程を見せてもらったが、革の引っぱる方向を考慮して革を切ったり、本体の
革に裏布を貼り付けたり、かかと部分の補強革付け、紐の入ったバイアステープの縫い付けなど約50の工程をほとんど手作業でやっている。淡いピンクのサテン地のトウシューズ(日産1500~2500足)は、オワーズ県のコンピエーニュ工科大学と提携して開発された特殊な材質(企業秘密)を先端に入れてあり、つま先が痛くならず、音がほとんどしない。
2012年にはレペットの靴職人の養成学校も設立した。現在は同社だけでなく広く職人を育てるための地域圏が運営する学校になっている。レペットのブランド戦略は奏功し、今では製品の半分が輸出で、日本向けがトップ。「さらに国際化を進め、成功を呼び込むブランドにしたい」というのがゴシェ社長の抱負だ。(し)