ボルヌ首相は1月10日、懸案の年金制度改革法案の骨子を発表した。全労組はとりわけ定年退職年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる措置に猛反対しており、今後の抗議運動が高まりそうだ。
政府は2030年に135億€にのぼると試算される年金制度の赤字を解消し、同制度を救済するために改革が必要と強調している。法案は23日に閣議提出、国会審議は2月から。3月中に成立で、夏の終わりに施行を目指す、政府は右派の共和党が基本的に賛成していることから法案成立に期待をかけているが、左派諸党は「福祉の後退」などとそろって反対、極右の国民連合も反対の姿勢を打ち出した。国民の約7割が定年の引上げに反対している上、労組も「不安定雇用の労働者や労働の苦痛度を認知されない人にとくに不利」と強硬に反対しており、すでに第1回目のデモが19日に予定されている。抗議運動の嵐が吹き荒れそうだ。(し)
年金改革法案の主な内容は以下の通り。
●定年退職年齢を62歳から64歳へ段階的に引き上げ
定年は現行62歳だが、今年9月から年3ヵ月ずつ引き上げ、2030年に64歳になる。これにより、1961年9月1日以前に生まれた人は62歳のまま、それ以降から65年9月までに生まれた人は62~64歳の間。それ以降は64歳に。これに応じて年金保険料の納付期間も年に3ヵ月ずつ長くなる。現行制度では41年と9ヵ月だが、2027年以降は満額年金を受給するためには43年間保険料を納付しなければならない。
ちなみに、満額年金の受給資格がある場合、その金額は、民間なら最も良い25年間の平均給与の50%、公務員は退職前6ヵ月の平均給与の75%で、仏紙によるとフランス人の平均年金は2020年末時点で月1400€。男性は1931€、女性は1154€と女性のほうが少ない。
●年金特別制度の廃止
年金制度には民間の被雇用者の一般制度のほかに、公務員、農業、電気・ガス企業、自由業者、国鉄(SNCF)やパリ交通公団(RATP)などの特別制度がある。この特別制度は一部の自由業者、船員、パリ・オペラ座などの制度を除いて段階的に廃止され、一般制度に吸収されるため、年金制度改革後に雇用される人は一般制度に加入となる。
●最低年金をSMICの85%に
満額年金受給資格のある人は、最低年金として法定最低賃金(SMIC)の85%にあたる額を受け取れるようになる。現時点のSMICだと、最低年金は1200€になる。現在すでに年金を受給している人にも適用される。
●長く働いた人、労働苦痛度の高い人
ボルヌ首相は、定年退職年齢が64歳になっても「保険料納付期間が44年間を超えることはない」と言明した。したがって、16歳より前からずっと働いてきた人は定年は58歳、16~18歳から働いた人は60歳、20歳より前から働いた人は62歳という例外措置が設けられる。
重い物を運ぶ、困難な姿勢で働く、機械振動を常に受ける、など苦痛を伴う労働は考慮され、定年は62歳に据え置き。ただし、政府は医師による定期的診断が必要としており、労組はこれに反対。
●育児休業期間が保険料納付期間に含められる
育児休業のために保険料納付期間が短くなるのは多くの場合、女性に不利であるため、育児休業期間も納付期間に含められるようになる。また、障害者ら労働が困難な人の場合は62歳で早期退職できる。
●シニア雇用を促進
シニアの雇用を促進するために、今年から従業員1000人以上の企業はシニア雇用の状況の公表が義務づけられる(来年からは300人以上の企業)。この措置には経営者団体のMEDEFが反対。