
ブルキエス誕生100周年を記念する、オリジナルケースの復刻版。2005年までのケースには、古代エジプト神話の太陽神「ラー」を表すハイタカの絵がついていた。
フランスに来て初めて「ブルキエス (boule Quies)」という言葉を聞いたのはかなり前のことだ。奇妙な名だと思いながら、それが 「耳栓」を意味する普通名詞だと長い間思い込んでいた。それぐらいキエス社の耳栓はフランス人の生活に欠かせない。今年は、ピンク色の玉状「ブルキエス」誕生100周年に当たり、それを記念するプレゼントキャンペーンに対し、愛用者から「何十年も使っている」「夫婦安泰はブルキエスのおかげ」といったメールや手紙が多数来るそうだ。
パリ南郊外パレゾーのキエス社を案内してくれたのは、オリヴィエ・ドニ=デュペアージュ社長。もともとブルキエスはパリの薬剤師が1918年、騒音に悩む客の要望に応じて鉱物ワックスに綿を混ぜて耳栓を作ったのが始まりだが、その薬剤師とともに1921年にブルキエス社 (「キエス」はラテン語で 「静寂、安らぎ」の意味)を創業したジョゼフ・モロー氏のひ孫に当たる人だ。会社はジョゼフさんの息子から、その娘婿のイヴ・ドニ=デュペアージュ氏、その息子のオリヴィエさんに引き継がれたファミリー企業。パリ15区にあった会社が手狭になったため、1989年にパレゾーに引っ越し、今では事務所と工場で2100㎡の敷地、別の場所に2500㎡の倉庫を持つ(社員49人)。
ワックス製耳栓「ブルキエス」に加え、1998年以降は、飛行機用 (気圧変化による痛み防止)耳栓、フォームタイプのポリウレタン製耳栓、水泳用のシリコン製耳栓のほか、耳垢防止・除去スプレーなどの耳の衛生関連商品、いびき防止スプレー、クラゲ刺され防止を兼ねた日焼け止めなどの商品を次々と開発し、商品の多様化に伴って2000年に 「キエス」と社名を変更した。スプレー類などの周辺製品は外注。耳栓以外の商品は年商1700万ユーロのうち7割を占める。

現在のブルキエスケース。8組入り3.65€。
とはいっても看板商品は年間6千万個生産のブルキエス。その製造工程の一部を見せてもらった。原料となる白い板状の固形パラフィンがタンク内で80℃に熱せられた後、コットンを混ぜて玉にするのだが、ノウハウの要である配合・成形プロセスは企業秘密ということで見学不可。昔は手で丸めていたそうだが、70年代から機械化が進み、今では1分間に3600個成形できる。くっつかないように玉を綿でくるむのも、ケースや箱詰めもすべて自動化されている。成形段階で機械から出る微小な金属片が混入する可能性もあるので、一つひとつ金属探知機を通される。医療機器の品質保証のための国際標準規格ISO13485の認可を受けているため、品質保証には細心の注意を配る。
キエスは、欧州やマグレブ諸国をはじめとして20ヵ国に輸出している。今後はこの輸出割合2割を5割にまで引き上げること、音楽は聞けるが不快音はカットする音楽専用耳栓など、よりハイテクな商品の開発に力を入れていくそうだ。音量の大きい音楽を聴く人が多い若者では約5割が聴力の低下や耳鳴りなどの問題を抱えると言われるが、ドニ=デュペアージュ社長は「音楽を大音量で聞かないこと。特に若い人は耳を保護してほしい」と助言してくれた。(し)
