欧州中世の騎士の剣技を起源とするフェンシングとフランスの関係は深い。欧州各国・地方によってルールがまちまちだったのを、1913年パリに設立された国際フェンシング連盟(FIE)が競技のルールを統一し、スポーツとしてのフェンシングが始まった。そのため、フェンシングの競技用語はフランス語だ。フランスはオリンピックのメダル獲得数ではイタリアに次いで2位と、このスポーツにめっぽう強い。そのフェンシングの、かつては世界のトップメーカーだったプリユール・スポールをブルゴーニュに訪ねた。
ディジョンから電車で10分のジャンリスにある工場を案内してくれたのは2014年に同社を買収したディディエ・コントルポワ社長。フェンシング歴53年で「ヴェテラン2」(50歳以上)の仏代表チームの一員だ。フェンシングが大好きで、倒産寸前のプリユールを「この伝統ブランドが消えるなんて考えられない」と買い取った。再建4年間で年商3倍(100万€)、輸出を2倍にした。
プリユールは、1788年にノルマンディーのプリユール家によって創業され、王や共和国政府の親衛隊の剣を作っていたそうだ。近代オリンピック(1896年開始)でフェンシングが正式種目になると、競技フェンシングの道具の製造を始め、1946年に南ブルゴーニュのモンソー・レミーヌに移転した。50年代までは世界一のフェンシング用品メーカーだったが、この競技が欧州以外の大陸にも普及するにつれて、独、英、ハンガリーなどの企業が台頭し、プリユールの業績は70年代から下降し始め、2000年代初めには経営が悪化して14年の買収に至り、工場も現在地に移転。一般向けでは中国企業のシェアが一位だが、国際競技用の高品質品はプリユールのほか、独、英、伊企業が強い。
プリユールはフェンシング用具総合製造販売会社だが、自社製造しているのは、マスク、剣(ただし剣針は主に仏Blaise Frères社製)。ジャケット、ニッカーズ(ズボン)、ラメ(フルーレ、サーブル、エペの3種目のうち前2者でジャケットの上に着用。通電のため金属糸織り込み)、ソックスなどの服類はモンソー・レミーヌの同社服製造部門を買い取った会社に、グローブはパキスタンに外注する。マスクの製造工程を見せてもらったが、オランダ製のスティール網(高級品はステンレス)をプレスで成形し、面と側面部分を機械で溶接していた。防護の前垂れをマスクに取り付けるのは一つ一つ手作業でやっていた。
フェンシングは剣を使うスポーツであるため、用具はFIEの安全基準が厳格だ。国際競技では、マスクのメッシュは12kgの圧力に、喉を保護する前垂れは1600ニュートン、ジャケットは800ニュートンの力に耐えなければならない。実際、ジャケットは丈夫でかなり分厚い。コントルポワ社長はモンソー・レミーヌの会社と共同で同じ強度を持ちながら重量が半分のジャケットを昨年開発した。自身が選手であることもあり、より安全で使いやすい商品の開発に熱心だ。
その技術開発力と高品質商品で「かつてのブランド力を取り戻し、もっと輸出を増やしたい」と社長は言う。(し)