ニューカレドニア住民投票、独立反対派勝利後の交渉は難航必須。
1998年のヌメア協定に基づく、第3回目かつ最後のニューカレドニア(仏名ヌーヴェル・カレドニー)の独立の是非を問う住民投票が12月12日に実施された。独立反対が96.5%を占め、マクロン大統領は、「今夜、フランスはより美しい。ニューカレドニアがフランスに留まることを選んだのだから」と発言した。
しかし、投票率はわずか43%だった。9月からのCovid-19流行のため280人が死亡し、先住民「カナック」の風習では長期間の服喪や儀式が行われるため、カナック社会主義民族解放戦線(FLNKS)は仏政府に来年の大統領選挙と総選挙以降に住民投票を延期するするよう申し入れたが受け入れられなかった。そこでFLNKSは10月20日に投票ボイコットを呼びかけるとともに、146人の有権者や市民団体が国務院に延期を求めて提訴し、投票直前の7日に国務院がそれを却下するという経緯があった。FLNKSの非暴力ボイコットの呼びかけにもかかわらず、本土から計1400人の憲兵・特殊治安部隊が派遣されたが、デモも暴動もまったく起きなかった。
投票の結果は、棄権率が第1回目の2018年19%、2回目20年の14.3%を大幅に上回って56.1%に達した。独立反対票は2018年は56.7%、20年は53.3%と減少していたのに、カナックの棄権により96.5%と圧倒的多数になったのだ。仏政府はインド=太平洋地域の覇権保持のために、大統領選前に「非独立」を既成事実にしたくて投票を急いだのだ、というポリネシア地域の専門家の意見もある。いずれにしても、過半数が棄権した住民投票の結果は、島民の総意を表わしているとはいえないのは確かだ。
FLNKSは今回の住民投票の正当性を認めず、「仏政府による住民投票であり、われわれのものではない」とした。本土政府とカレドニア政府の合意によると、2023年6月末までが移行期間となっており、それまでに新たなカレドニアの政治・司法・社会機構の枠組みを決める必要があるが、独立派は来年の大統領選挙と総選挙までは話し合いに応じないとする。だが、15日まで現地にいたルコルニュ海外領土相は地元議員に今後の交渉のロードマップを示す書簡を送り、水面下では交渉が継続しているといわれている。
カレドニア政府(独立派政権)への仏政府の補助金や融資の問題、そしてニッケル産業の今後が大きな課題だ。世界のニッケル埋蔵量の25%を占めるニューカレドニアでは、外国資本を自由に入れたい仏残留派(主に右派)と、公的資金などの地元資本による運営を求める独立派の間で対立が深刻化し、南部のブラジル資本のニッケル鉱業会社Valeは独立派のストにさじを投げて20年末に撤退・操業停止。やっと21年3月に地元資本51%、外資49%のコンソーシアム設立で合意が成った。地元住民を潤し、かつ環境問題にも配慮するようなニッケル産業の構築はニューカレドニアの将来にとって重要な課題だろう。
物価は本土より33%も高いのに、最低賃金は20%低い。貧困線以下の人は全住民の18.3%(本土14.6%)、上位10%の富裕層が下位10%の貧困層の8倍の収入(本土は4.4倍)と貧富の格差が大きい。ヌメア協定でカナック人と欧州出身者など非カナック人が「ともに生きる」ことが謳われたが、現実は失業者と貧困者の7割はカナックだ。19世紀半ばから土地や資源を奪われて労働を強制されたカナックと、植民地主義をテコに富を蓄積してきた支配層の間の溝を埋めることは可能なのだろうか? 今後の仏政府とカレドニア政府の交渉は難航しそうだ。(し)
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▶︎よむたび。〈29〉ヨーロッパ〜アフリカ〜カリブ海
『カナキー :アルフォンス・ディアヌの足跡を辿って(仮題)』
KANAKY:Sur les traces d’Alphonse Dianou
ジョゼフ・アンドラス著 Actes sud刊 2018年