
パリから、まっすぐ南へ800km。赤茶色の瓦屋根、サーモン色やブルーの建物が並ぶナルボンヌ旧市街は、地中海へ注ぐロビーヌ運河など、南フランスらしい風情をたたえている。 「フランスで最も美しいマルシェ」に選ばれた常設市場には海と陸の幸がふんだんに並び、ワイン産地のコルビエール丘陵やミネルヴォワなどにも近く、食いしん坊にはたまらない。南フランス最大級の大聖堂、大司教館とその宝物館など、文化財も豊かな町だ。
とはいえ、ナルボンヌの魅力はそれだけではない。紀元前118年、イタリアとスペインを結ぶ 「ドミティア街道」が町の中心に敷かれ、それを軸に市場、神殿、劇場などの施設が次々と造られた。古代ローマの国外における最初の属州となった、アルプスからピレネーまでの広大な「ガリア・ナルボネンシス」の州都が置かれ、リヨンやパリよりも早くに一大都市が築かれた。町は本国イタリアの都と比肩する壮麗さで、地中海屈指の港とともに繁栄したナルボンヌは、「ローマの娘」と呼ばれた。初代ローマ皇帝アウグストゥスのために海辺の宮殿が建てられ、そこには円形で直径65mもの大きな生簀(いけす)と、その水上で料理を楽しむためのテラスがあったことなども判っている。

ドキュメンタリー 「Narbo Martius : l’antique ville de Narbonne érigée par les Romains」から
アルルやニームのように現存する古代ローマの建造物がないため、古代ナルボンヌの歴史は今まで忘れられていたが、ここ25年ほどの発掘調査と再現技術の発達で、壮大な古代都市ナルボンヌ「ナルボ・マルティウス」の姿が見えてきた。今も数々の発掘が続いている。2021年には、ノーマン・フォスター氏が設計した考古博物館 「ナルボ・ヴィア」もオープン。しばしの、古代ナルボンヌの旅を楽しもう。(集)

★★★
【特集 2】では、豪快なマルシェと、おすすめレストランを紹介!
「ローマの娘」 古代都市・ナルボンヌ

古代ナルボンヌ 「ナルボ・マルティウス」について知るために、まずは市庁舎前の広場へ。広場の真ん中にはくぼみがあって、その底に、紀元前118年ローマ共和国の執政官ドミティウスが造らせた「ドミティア街道 Via Domitia」の一部が見える(はずが、クリスマスのために覆われてしまいました。あしからず!)。

イタリアとスペインを結ぶこの街道は、今日の rue Droite の地下に眠っている。後にドミティア街道のほかに、ボルドーとナルボンヌを結ぶ (=大西洋と地中海を結ぶ)「アクィタニア街道」が敷かれると、 2大街道の合流地点となったナルボンヌはますます発展する。
市庁舎広場を北へ 1 分歩けば、地下倉庫「horreum ホレウム」跡。当時、ここには大市場があり、その地下の食品貯蔵庫として使われていた。

ドミティア街道をさらに北上すると、町の政治と神事を司った 「キャピトル」。列柱に囲まれた敷地内には、伊カラーラ産の大理石を使った白亜の神殿。ジュピター、ジュノン、ミネルヴァを祀っている。神殿の柱は30本、高さは35m。これはニームにある神殿メゾン・カレの倍の高さだ。これみよがしに巨大な建造物を建てたのは、ローマ帝国が初めてガリア (当時のフランス)に築いた都だから、支配者の力を誇示する狙いがあったとされる。

そのもう少し北には貴族の屋敷街 Clos de la Lombarde 跡がある。大小4軒の屋敷のうち、大きな屋敷では、横たわって宴を開く 「トリクリニウム (3台の臥台)」の食堂が発見された。凝った模様のモザイクやタイル、食器なども出土している。その集落の共同浴場には脱衣室、床下暖房による暖かい部屋、湯船、水風呂、鉛の管を使った水道、排水のシステムまで完備。また、南フランスで最古のキリスト教の信仰の場ともいわれる教会堂も発見されている。キリスト教の浸透と、ローマ帝国の斜陽を象徴するものだという。
ナルボンヌ北13kmのサレル村には、陶芸村の跡 「Amphoralis」が再現されている。ローマ支配が始まった当初はイタリアからワインを輸入していたが、西暦1世紀にはナルボンヌ産のワインを輸出するようになったため、多数の壺が必要になったのだ。陶土採掘、ろくろ工房、醸造ブームのため壺を増産するようになった西暦50年ころの巨大窯もあわせて大小17基。ナルボンヌで造られた壺は、ずんぐりしているが、底が平らで輸送しやすい 「ガリア4番」。ここでは当時の建材と方法で窯を再現し、焼く時間や技術を試しながら、当時の製法を究明する実験考古学を実践しているというから、冬は閉まっているが、別の季節にぜひ訪れたい。


栄華をきわめたナルボ・マルティウスだったが、外敵の侵入に備えて城塞を造ったり、港の堤防の修復に石が必要となると立派な廟や、白亜のキャピトルの神殿が切り崩され使われるようになった。キリスト教の浸透とともにナルボンヌの神殿を破壊することは旧体制の打倒を意味した。結局、ナルボンヌには古代の建造物は何もなくなった。
のちに、城塞を解体した際に、壁の建造につかわれていた多くの墓石は保管され、2021年にオープンしたナルボ・ヴィア博物館の、「mur lapidaire 石の壁」(表紙と下の写真)に収蔵・陳列されるようになった。同館では再現映像もあるので、古代都市ナルボ・アルティウスの姿を見ることができる。

◉ Musée Narbo Via(ナルボ・ヴィア考古学博物館)
2 av. André Mècle 11100 Narbonne
Tél : 04.6890.2890
10月〜4月 : 月休。火〜日10h-18h。
12€ / 9€ (同券で下記のHorreumとAmphoralisも入場可)。
【行き方】市の無料巡回バス 「CITADINE2」で Narbo Via下車。鉄道ナルボンヌ駅、市庁舎なども通るので便利。市庁舎からナルボ・ヴィアまではこのバスで10分ほど。月〜土7h40-19h20の間、10分間隔で運行。日・祭日運休。


◉ Horreum(地下倉庫跡)
7 rue Rouget de Lisle 11100 Narbonne
Tél : 04.6832.4530 市庁舎から徒歩1分。

◉ Amphoralis (壺作り村落跡。2026年2月23日まで閉館)
Allée des Potiers 11590 Sallèles-d’Aude
Tél : 04.6846.8948
◉ Clos de la Lombarde
貴族の屋敷街跡。考古学を愛する人々の協会によって運営されている遺跡。3D見学をすれば古代ナルボンヌにいるように感じられるだろう。
48 rue Chanzy 11100 Narbonne
5€/4€ (12歳〜18歳)12歳未満無料
https://closdelalombarde.com/
◉ Hôtel de France (ホテル)

レ・アールまで徒歩1分の優良立地!かつ、主人コリンヌさんのあたたかな人柄が旅人に嬉しい個人経営ホテル。1年半前からコツコツと改装を続け自分テイストのホテルに改造。シングル70€〜。
6 rue Rossini 11100 Narbonne
Tél : 04.3037.0147

◉パリからナルボンヌの行き方
パリ・リヨン駅からナルボンヌ直行だと4h40。乗り換えでも5時間程度。
フランス国鉄のサイト


