置時計や掛時計が一般家庭からほぼ姿を消した今でも、多くのフランス人には子どもの頃におばあちゃんの家にあった大きな時計の思い出がある。フランスではスイスに近いブザンソンとその周辺地域が時計の生産地として有名だが、スイス資本に買収されたり、スイスに移転したりして、残った企業も、ムーブメントと呼ばれる時計の機械部分を買って組み立てるメーカーが今ではほとんどだ。ジュラ県北部で17世紀から作られている大型置時計「コントワーズ (フランシュ・コンテ地方の置時計)」では、ブザンソン郊外のマニュファクチュール・ヴィユマン(社員4人)が国内で唯一、自社でムーブメントを作っている。
コントワーズは錘(おもり)によって、機械式ムーブメントと時間を告げるベルを作動させることに特徴がある。文字盤の上の真鍮製レリーフ、大きな円形の振り子、それが収まる部分の装飾を施したカーブを描く木の箱……。コントワーズの生産は19世紀半ばに最盛期を迎え、1910年代には廃れた。ところが1969年、ジャン・ドリゴティ氏がコントワーズを再生しようと、SERAMM社を設立。一時は月1000台生産するまでになったが、需要が減って廃業寸前になったところ、機械卸をしていたフィリップ・ヴィユマンさんが2010年に同社を買収して、マニュファクチュール・ヴィユマン社を設立した。年に500~600台の置時計・掛時計を製造する無形文化財企業(EPV)だ。
同社のムーブメントの仕組みは腕時計と違ってゼンマイではなく、鋳鉄製の錘を下げた紐がほどける動力で複数の歯車に動力を伝える。錘は3~4㎏、紐は1.75mもある(1回の巻き上げで8日間動く)。ベルの装置も同様の仕組みでハンマーを動かし、文字盤の上にあるベルを30分・1時間ごとに鳴らす。文字盤の分針と時針は振り子が揺れる動きで調整される。真鍮やステンレス材から歯車、針、振り子、ケージを切削・プレスし、研磨・メッキしてからムーブメント部分が組み立てられる。組み立ては部品一つひとつを固定していくのでおよそ30分。文字盤や木製・金属製のケースは外注だが、ジュラ地方の時計産業を守るため、近くの企業を使うことにこだわる。クラシックな木製(トウヒ、オーク)スタイルでは、地元の高級家具師(エベニスト)に依頼する。ムーブメントに文字盤だけを付けたミニマルな壁に取り付けるタイプやステンレスケースなどのコンテンポラリーなスタイルも。
昔ながらの大型の置時計は廃れてしまったが、機械式ムーブメントがそのまま見える現代的デザインのものはそのままインテリアとして使えそうだ。国内外の代理店を通して販売するほか、ホテルやレストランなどを手がけるインテリアデザイナー経由、インターネット経由、「メイド・イン・フランス」のブランド力を生かした輸出にも力を入れている(北欧、イタリア、メキシコ、日本など輸出は15%)。年に100件ある修理依頼も受け付けており、摩耗した部品を替えれば50~100年は楽に持つ。こうした時計は長く大切に使いたいものだ。(し)