去る12月19日、移民規制・同化促進法案が両院で可決され最終的に成立した。政府原案より規制が強化された法案に、与党連合内部で不協和音も聞かれた。年が明け、1日8日にボルヌ首相が辞任。憲法評議会は今月25日に合憲性の判断を下す。
移民規制法の主な内容
最終成立した法案では、年間の移民受入数を国会で規定、滞在許可証取得・更新には共和国原則(言論信教自由、男女平等など)尊重の条件付。人手不足業界の不法労働者への滞在許可については、原案では3年の滞在で給与証明書が8ヵ月分あれば自動的に滞在許可証を得られるとされたが、最終案では12ヵ月の給与証明が必要で、これまで通り県知事が個別に判断する。また、学生身分の滞在には保証金の提示が必要になる(帰国する際に返金。帰国しないと返金されない)。さらに、6ヵ月以上合法的に滞在すれば外国人にもフランス人と同じく支給される福祉手当(家族手当、住宅手当など)の受給条件が厳しくなり、5年間の滞在が必要(ただし30ヵ月間働いた外国人や障害者には支給される)。この点は左派や人権擁護団体らが人権擁護のフランスの伝統と相いれない「フランス人優遇措置 」と激しく反発している。
さらに、国籍取得についても、結婚の場合は、婚姻期間要件が現行の4年から5年に、在住期間要件は5年から10年へ。生地主義により現在は外国人の両親から生まれた子は18歳で自動的に仏国籍を得られるが、今後は18歳で国籍取得を申請する必要がある。さらに2012年に廃止された違法滞在罪が復活し、罰金3750€、3年間の仏入国禁止に。外国人の国外退去措置が厳しくなり、13歳以前にフランスに入国して20年以上(親や配偶者が仏人である場合は入国して10年以上)の人は国外退去の対象にならなかったが、共和国原則に違反する人、禁固5年以上の有罪判決を受けた人(政府原案では禁固10年以上)、DVや議員に対する暴力の場合は禁固3年で退去になる。警官など公的権威を持つ人に対する殺人/未遂で有罪になった人は過去に取得したフランス国籍を剥奪される。
政府案から大幅に右寄りになった最終案の成立に、与党連合内では亀裂が生まれ、ルソー保健相は「この法の条文は私には説明できない」と辞任。高等教育相も辞意を表明した(最終的に留任)。RNのルペン氏は「イデオロギー的勝利」と満足する一方、パリを含む左派県政の32県は、高齢者や障害者に支給される個別自立手当の外国人の受給要件厳格化に反発し、同法の適用を拒否すると20日に宣言した。
全国の大学・高等教育機関の学長連盟は外国人学生に保証金を求めることは国の学術・文化振興の利益に反すると反発。市民団体や主要労組も法案は「共和国の原則に反する」と反対運動を呼びかけ、大統領に同法を公布しないよう求めている。
成立の経緯
この法案は、難民申請手続きの迅速化や国外退去の簡略化とともに、人手不足の業界における不法労働者への滞在許可発給を容易にすることを目指してダルマナン内相が提出していたたもの。まず、共和党が過半数を占める上院で審議され、不法滞在者向けの国家医療支援(AME)の廃止、外国人の福祉手当受給資格の厳格化、生地主義の制限など、政府案にはなかった様々な修正案が追加された。
国民議会では法制委員会で上院案を一部削除、緩和するなどして11日に本会議にかけられたが、ヨーロッパ・エコロジー=緑の党(EELV)が提出した法案審議入り拒否動議が、左派諸党ばかりか、極右の国民連合(RN)、共和党の賛成票を得て、270対265という僅差で審議前に法案が却下されるという異例の事態となっっていた。
政府は廃案にせずに、ただちに上下院合同委員会での妥協策を模索し、上院案に近い最終法案で合意が成った。その法案が12日に上院、国民議会と続けて可決して成立。国民議会ではRN、共和党の全議員と与党連合の多くが賛成票を投じ、左派諸党が反対したが、あまりにも右寄りの法案に与党議員のうち59人が反対・棄権。移民規制が厳しすぎると左派が反対した法案が、より厳しい形で成立する結果になった。
憲法評議会
左派諸党だけでなく、マクロン大統領も同法の違憲審査を憲法評議会に直ちに請求した。大統領は同法案が国民議会で却下された際も廃案にせず、政府に迅速な成立を促したといわれる。まるで法案内容の可否判断を憲法評議会に委ねているかのようだ。
憲法評議会は1月下旬に判断を下す予定だが、家族生活を送る権利を侵害し得る家族呼び寄せ条件の厳格化、合法的滞在者の福祉の権利を侵す恐れのある福祉手当の受給要件の厳格化などが違憲判断の対象になると専門家はみている。(し)