ルコルニュ首相は10月14日、国会で施政方針演説を行い、年金改革の大統領選までの停止、強硬採択しないこと、財政赤字の目標などについて述べた。16日、左派の内閣不信任案はわずかに票が足らず否決された。

争点だった年金改革の一旦停止
施政方針演説でルコルニュ首相は、2023年の年金制度改革を現状のまま2027年の大統領選挙まで停止するとした。この改革の主眼は、法的な定年退職年齢を当時の62歳から64歳に段階的に引き上げ、それに伴い年金満額受給のための保険料納付期間の段階的延長を加速して2027年に43年間に延長するもので、左派政党や労組から猛烈な反発を招いた(当時のボルヌ首相は2023年3月に強行採決したものの、左派は今でも廃止を求めている)。
また首相は、現在62歳9ヵ月となっている定年年齢および42.5年間の保険料納付期間をこのまま2028年1月まで据え置くことを提案した。首相によると、この措置の恩恵を被る人は約350万人だが、財政支出は来年度で4億€、27年度で18億€ 増えるという。

強行採決、財政赤字目標、富裕税。
同時に、首相は国会で議論を尽くし強行採択はしないことを約束。また、来年度の財政赤字は国内総生産(GDP)の5%未満にすべきと主張。同日に公表した来年度予算案でGDPの4.7%の赤字を見込み、年内成立を目指す。
いっぽう、社会党が求めていた「課税の公正化」のための超富裕層への課税については、持株会社を利用した節税の規制や、インフラ、エコロジー移行、国防といった未来への投資のための超富裕層への「特別課税」の考えを述べるにとどめた。
ルコルニュ内閣を救った社会党と、「年金改革停止」の落とし穴。
社会党は10月頭ころから、年金改革の停止を条件に不信任案には票を投じないとルコルニュ首相と取引きをしていたため、施政方針演説の年金改革停止の方針を歓迎した(しかし、年金改革の廃止を掲げて昨年結束した左派連合とは決裂することとなった)。
ところが、首相は姿勢方針演説の翌日になって、年金改革の停止については、すでに閣議提出された来年度社会保障予算案(PLFSS)に11月に修正案を提出することで実現するとし、その修正案の成立については国民議会の採決に委ねるとした。
それに対し社会党は、改革停止は首相が議会と国民に対して約束したのであるから、それが守られなければ、将来、不信任案に投票すると主張。党内部には、その修正案を成立させるために、年金や各種福祉手当の凍結や健康保険の被保険者の負担を重くするPLFSSに賛成せざるを得ない事態に追い込まれるのではないかと危惧する向きもある。PLFSSが成立しない場合も考慮に入れて、別に年金改革停止を規定する法案を作るべきという意見もある。
服従しないフランス党(LFI)と極右の国民連合(RN)がそれぞれ提出した内閣不信任案は16日に国民議会で採決された。LFIの不信任案は、LFI、エコロジスト党、共産党のほか、RNと極右系右派UDR、社会党+社会党系7人も賛成したが、271票で議席過半数の289票にわずか18票及ばなかった。RN提出の不信任案は賛成144票にとどまった。
今回はかろうじて首のつながったルコルニュ首相だが、これから始まる来年度予算案の審議が荒れるのは必至であり、不信任案のリスクのなか野党とどこまで妥協案を見つけていけるかがカギとなるだろう。(し)
