
「左派VSバイルー首相。9月10日の賭け」
インターネット上から拡散された「すべてを阻止する(Bloquons tout)」をスローガンに掲げる運動が左派諸党の賛同を受けて広がりを見せている。その実行日9月10日には一体何が起きるのだろうか? 一方で、バイルー首相は8日に国会で信任投票を行うと発言し、一気に政局が変わる可能性も浮上してきた。
仏紙によると、この運動は7月半ば頃にSNS上で生まれたという。急進左派、極右、7年前の黄色いベスト運動の流れを汲んだ反体制グループなどが9月10日にスト、自主隔離、消費ボイコットなどを呼びかけたのが始まりらしい。それより前に仏北部の市民団体がSNSのテレグラムで国民の怒りや不満をぶつけたことから始まったという見方もある。そこに7月15日にバイルー首相が来年度の緊縮予算案を打ち出したため、「すべてを阻止する」呼びかけが一気にSNS上で拡散した。その予算案では、財政赤字を減らして来年度の国内総生産(GDP)の4.6%に抑える(今年度5.8%)ために438億€の節約が必要とし、軍事予算は35億€追加されたものの、ほかの多くの予算はカットに。とくに、年金を含む社会福祉諸手当の支給額を物価にスライドさせずに凍結する(71億€節約)、退職公務員の3人に1人は補充しない、祭日を2日ほど少なくする(42億€節約)は市民を直撃する施策だけに反感を招いた。また、社会党らが要求していた超富豪の資産への2%課税は行わず、わずかな税控除を廃止するにとどめた。
当初は極右とも極左ともとれる抗議の動きを様子見していた政党だが、まず服従しないフランス党(LFI)のメランション氏ら幹部数人が8月16日に「トリビューン・ディマンシュ」紙上で、9月10日の運動に加わるよう呼びかけた。同時に内閣不信任案審理のための臨時国会の召集を求めた。労組FOとCGTの一部もすでに参加を表明しており、続いて21日から夏のセミナーを開催していたエコロジスト、共産党、社会党と、左派諸党も次々と賛成を表明した。エコロジストはバイルー内閣の不信任案への投票の可能性も含めて10日の運動への参加を表明。これまでバイルー内閣不信任案に賛成票を投じなかった社会党も、予算案には反対を唱え、10日の運動の支持を表明した。政府批判のお株を奪われた形の極右の国民連合(RN)は逆にこの運動とは距離を置くと明らかにした。

10日の抗議運動がどういう形で表れ、どれほどの規模になるのか、現時点で予測することは難しい。このほかにも、健康保険で払い戻されるタクシー料金制度の改定に反対するタクシー運転手のストが5日、一部の鉄道のストが10日、ジェネリック薬のマージン減少に反対する薬局のストが18日など、夏休み明けの抗議運動は目白押しだ。これまで不信任案の可決を逃れてきたバイルー首相だが、こうした圧力を受けて25日に記者会見を開き、9月8日に臨時国会を召集して内閣の信任投票を行うと発言した。左派4党のほか、RN、シオティ氏率いる右派連合は信任しない意向を示しており、左派は実質的な辞任と揶揄。結果的に、SNS上の市民の怒りの声から政党や労組を巻き込んだ運動に発展しつつあった動きがバイルー首相の決心を促したのだろうか? 内閣不信任が成立したら10日の抗議運動は矛先を失うのではないか?いずれにしても政局はますます混乱しそうだ。(し)
