15世紀ころに始まった、職人が職業ごとに結社を作り、親方に賃金交渉したり、よそから来る職人を見習いとして迎え修業させたという、コンパニョナージュ。今日のフランスでも、引く手あまたの職人を養成する職業訓練制度として生き続けている。
旅のなかで、人間性と職能が育まれる。
「大聖堂や城を建てるとき、有能な職人がフランス各地から建設現場に呼び寄せられた。こうして職人の巡回は始まったのだろう。各地方の様々な建築法を身につけるられるので、旅をすればするほど職人の能力も向上していった」とフランス最大のコンパニョナージュ団体AOCDTF*事務局のジャン・モパン氏は言う。15世紀頃に歴史に登場したコンパニョナージュという制度は、中世の日本の「座」や西洋諸国のギルドにも似ているが、職人同士が助け合う労組的な面もある。
16〜17世紀には仏各地に職業だけでなく出自や宗教(カトリック/プロテスタント)に応じてコンパニョン結社ができ、大工、石工、指物師、靴職人、馬具職人、錠前職人、印刷工、刃物職人、仕立て屋、蹄鉄工などその種類も増えた。彼らは労働条件の改善を求めてストをし、独自の儀式を行ったという。
19世紀までには職種も数もさらに増え、利益を巡る結社間の争いも多発、仏革命や産業革命後は衰退しつつ組織の再編が進んだ。その中で産業革命によるコンパニョナージュの衰退を食い止めるためユニオン・コンパニョニック***が1889年に設立。1941年にコンパニョン・デュ・ドゥヴォワール=ツール・ド・フランス労働者協会(AOCDTF*)、さらに53年にはコンパニョニック連盟**が設立された(他にも約15の小規模団体あり)。
団体は違っても制度はほぼ同じ。中卒(約半分)から大卒までコンパニョンを目指す若者が入会し、昼は企業で職業訓練、夜と土曜日は見習い訓練センター(CFA)で技術や一般教養を学び、職業適性証(CAP)を取得する。同時に自分の技能を示す小作品を提出して認められれば、いくつかの町を回って修業する「ツール・ド・フランス」に出る。コンパニョン団体は全国に宿泊施設を持っているので、そこに泊って昼は企業で働き、夜と土曜は研修を続ける。平均5〜6年のツールの終わり頃に作品(chef d’oeuvre)を提出し、認められると晴れてコンパニョンになれる。
ただし、それでツールが終わるわけではない。コンパニョナージュの3原則は、「職能、旅、伝達」だからだ。「伝達」とは自分が身につけたことを後輩に伝えること。コンパニョン認定の際にも、技能だけでなく、集団生活のルールの遵守、助け合い、面倒見のよさなど人間性が重視される。コンパニョン・デュ・ドゥヴォワール(devoirs=義務)と呼ばれるゆえんだ。
他にも礼儀、根気、正直さ、自立、きちんとした服装などが問われ、以前は違反すると罰金を科された。今日でも宿泊所の食堂には規則が額に入れてある。
「コンパニョナージュとは、若者に職業実践を通して最大限の能力を獲得させ成長させるもの」とモパン氏が言うように、修業中に職業資格免状(BEP)から職業学士号の取得を奨励し、優秀な人材を育てる。コンパニオンの就職率は90%だ。
主なコンパニョナージュ3団体
●Association Ouvrières des Compagnons
du Devoir Tour de France (AOCDTF)*
会員10,800人。30の職業、年間1万人の若者を訓練。CFA約80ヵ所、57の宿泊所。2004年から女性を受け入れる唯一の団体(女性13%)。1年間の外国ツールを奨励(日本含む66ヵ国)。
www.compagnons-du-devoir.com
● Fédération Compagnonnique **
独立した職業別7団体(大工、石工、指物師、左官など建築関係とパン職人等)の連盟。会員2000人。CFA12ヵ所。宿泊所50ヵ所。職業高校1ヵ所。短期外国 (7ヵ国)研修可能。
compagnonsdutourdefrance.org
● Union Compagnonnique ***
(des Compagnons du Tour de France
Des Devoirs Unis)
主に建設、食関係、ジュエリー・工芸、革製品、関連の職業。37歳以上でないとコンパニョンになれない。仏・スイスに25の地方支部。
www.lecompagnonnage.com