南仏ラ・シオタ映画散歩
Remerciements : Le Comité Régional de Tourisme Provence‑Alpes‑Côte d’Azur
南仏の港町ラ・シオタには世界最古の現役の映画館エデン・テアトルがある。グレープフルーツ色の外観が地中海の陽光に輝く当館は、チャップリンと同じ1889年生まれ。当初は演劇やコンサート、ボクシングの試合が催された。
映画史ではリヨンやパリが映画の発祥地と考えられるが、ラ・シオタももう一つの正当な映画の故郷。シネマトグラフを発明したリュミエール兄弟の父アントワーヌは、友人から南仏の光の美しさを聞き、この地に別荘を構えた。ここで一家は夏のバカンスを過ごし、有名な『ラ・シオタ駅への列車の到着』をはじめ、『水をかけられた散水夫』『赤ん坊の食事』など、映画初期の作品を多数撮影。リラックスムードの作品が多いのは別荘地だったからだろう。
1895年9月21日にはパレ・リュミエールと呼ばれる別荘で、150人を招待しシネマトグラフの上映会を開催。実質的なお披露目に。エデン・テアトルのオーナーでアントワーヌの友人だったラウル・ガローはこの発明を気に入り、エデン・テアトルでの上映会を促す。こうして翌月10月14日に上映会が実施されたが、技術的な問題が発生。その後、同年12月28日にパリのグラン・カフェ内インドの間で上映会が催された。これが世界初の有料の映画上映だったため、映画の誕生とされた。しかし、シネマトグラフのお披露目は先にラ・シオタで実現していたのだ。
パリでの成功から4年後の1899年3月21日、あらためてエデン・テアトルで250人の観衆を前に興行が実現したが、この時は無事大成功!当時のプログラムのポスターは今も映画館ロビーに掲示される。2021年にはギネスブックがエデン・テアトルを世界最古の映画館と認定したが、このポスターの存在が重要な根拠になった。
当館は映画の繁栄と足並みを揃えてきたが、数々の災難にも見舞われた。1980年代前半、街の経済を支えた造船業が斜陽となり客足が激減。1982年には強盗に襲撃され25歳の若い支配人が命を落とした。老朽化が進み、取り壊しの噂が流れる中、市は1992年に建物を購入するも、1995年に構造安全性に赤信号が灯り閉鎖へ。だが翌年、歴史的建造物に指定されるなど再開の希望の芽はあった。しばらく改修費用が集まらず苦労をしたが、ルイ・リュミエールの曾孫ジル・トラリュー=リュミエール、フレデリック・ミッテラン文化相、クラウディア・カルディナーレら映画人の支援を受け改修工事が実現。
16ヵ月の大規模工事を経て、2013年10月9日、ついに完成に至った。赤い内装が印象的なイタリア式劇場という創業時のイメージは守り、不死鳥の如く蘇ったのだ。現在は600人の会員を抱えるアソシエーション運営のアート系館として、オリジナル言語の上映(VO)にこだわる。独立系の新作はもちろん、フリッツ・ラングやサッシャ・ギトリなどの旧作、たまには『オッペンハイマー』などの大作まで、週13から15本の多彩な作品を提供する。
● Cinéma Eden-Théâtre La Ciotat:
25 Bd Georges Clemenceau 13600 La Ciotat
edencinemalaciotat.com
Tél : 04.8842.1760
水と土の14h30に見学会実施。5€ / 12歳未満無料。
★あわせてお読みください。
【特集 】フランスの映画館〈その1〉フランスの映画館事情
こちらからご覧ください。
リュミエール兄弟と映画の足跡をたずねて。
リュミエールゆかりの場所がたくさんあるラ・シオタの町を歩いてみよう。
⚫︎ 鉄道ラ・シオタ駅
世界最初の映画の一本、ルイ・リュミエール監督 『ラ・シオタ駅への列車の到着』(1895年)の撮影地、SNCFラ・シオタ駅。ホームには記念碑も。駅から中心街 (観光局前)へは海岸沿いを走る40番バスで18分。
● パレ・リュミエール Palais Lumière
1891年にラ・シオタに滞在し始めたリュミエール兄弟の父アントワーヌが建てた別荘。90haの土地を購入し1893年に完成。1895年にサロンで無料の映画上映会を実施。現在は文化遺産の日に一般公開。
Allée Lumière 13600 La Ciotat
● 映画 『L’Arroseur arrosé』の像
ラ・シオタで撮影の『水をかけられた散水夫』(1895年)は世界初のコミック映画 !エデン裏手の公園には微笑ましい散水夫の像が。同公園にはラ・シオタを愛した名優ミシェル・シモンの像も。
● Le Musée Ciotaden
町の歴史を古代から近代まで多角的に紹介する。
リュミエール兄弟関連資料を展示する部屋は2階に。
1 Quai Ganteaume 13600 La Ciotat
火~土14h-18h 5€/割引3€/ガイド8€
museeciotaden.org
● 映画館 Cinéma Le Lumière (現在閉館中)
町の中心地にあるリュミエール兄弟の名を持つ映画館。惜しまれつつ昨年末に110年の歴史に幕を下ろした。外観はマルシェ風。再開を求める運動も続く。
Place Evariste Gras 13600 La Ciotat
● Office de Tourisme de La Ciotat
港とバス停の向かいにあり立地抜群の観光局。
Bd Anatole France 13600 La Ciotat
www.destinationlaciotat.com
Tél:04.4208.6132
月-土:9h30-12h30/14h-18h
映画以外のおたのしみ