マルタン・プロヴォ監督の『La Bonne épouse』は、フランス全国600館で公開され、公開初日3月11日(水)だけで、8万人の入場者を記録した。日が進むにつれてコロナ対策として100人以上の集会禁止が発令され映画館は入場者数を制限をせざるをえなかったり、人々が外出を自粛するなどで入場ペースがダウンしたものの、土曜日までで17万人を動員。しかし結局、新たな政府の措置によって映画館は休館に追い込まれた。
ヒット街道を歩み始めていた本作が、コロナ騒動収束後、再びプログラムされて我々を楽しませくれることを願うばかり。
La Bonne épouse|価値観が変わる時代の花嫁修行学校。
『セラフィーヌの庭』では独学の女性画家、『ヴィオレット-ある作家の肖像』では先鋭的な女流作家、『ルージュの手紙』ではワケありで疎遠の母と娘…。MeToo運動が起きる前から一貫して「女性の生き方」に関心を寄せてきたマルタン・プロヴォ監督。新作『La Bonne épouse』は、彼の関心の集大成と言えるかもしれない。これまで監督は繊細な正統派ドラマを多く手がけてきたが、今回は同じ「女性の生き方もの」でもコメディに挑戦、シリアスな説教臭さは皆無だ。舞台は地方の女子寄宿学校。60年代のレトロ・ファンタジーと呼べそうなインテリアや服装は色彩にあふれ、映画に軽やかな風が吹く。
風光明媚なアルザス地方。花嫁修行の寄宿学校が新入生を迎える。良妻賢母候補を養成するのは、身なりも完璧な学長ポレット(ジュリエット・ビノシュ)。生徒に良き妻の七カ条を伝授する。良き妻とは、「夫の同伴者。自分を抑え、理解があり、ご機嫌でいること」「家事をやり遂げ文句は言わない」「最初に起き最後に寝る。アルコールは禁止だが、夫が飲むのは許すこと」……。こうして集団生活はスタート。だが、時は世の中の価値観が転換する五月革命前夜。ある事件をきっかけに、学校は根本から再生を迫られる。
本作に出てくる類の花嫁学校はフランスに実在したそうで、19世紀末に誕生し70年代前半には消滅。また、この時代にようやく妻は夫の許可なく銀行口座が開けるようになっている。脚本はそんな女性の権利にまつわる歴史的事実を積極的に取り込んでいるのが興味深い。
ポレット役のビノシュを始め、料理担当ジルベルト役のヨランド・モロー、修道女マリ・テレーズ役のノエミ・ルヴォヴスキと、シリアスもコメディもお手の物の芸達者女優トリオが、愛着の湧く人物像を楽しそうに好演。そして何より、これまで映画史があまりになおざりにしてきた女性たちの友情や団結の描写に胸がすく。ラスト辺りで意表を突く物語の大胆な転調も楽しみにしてほしいサンパな一本だ。(瑞)