日本語教師:ジュリアン・フォンタニエさん
「ボーンジュール、みなさん!さぁ、一緒に日本語のレッスンを始めましょう!」と、お決まりの挨拶でジュリアンさんのビデオ講座が始まる。ジュリアン・フォンタニエさんは日本語の授業を自撮りして編集し、ユーチューブに投稿する「ユーチューバー日本語先生」 だ。
ビデオの投稿を始めたのは2015年11月。27歳、ユーモアと茶目っ気あるジュリアンさんの懇切丁寧な授業が無料で受けられるとあって、彼のユーチューブチャンネル「Cours de japonais! 」は、今や登録者10万6千人を数える大人気チャンネルになった。日本語レッスンとしては最大級だ。
「時間はかかるかもしれないが、初心者でも努力を続ければ日本語が流暢に話せるようになる」授業。はじめの40回は平仮名と片仮名を中心に「読み書き」、その後、文法と語彙を並行して学ぶ。ビデオごとにドリルが添えられ、生徒はそれをダウンロードすれば、おさらいができる。解答も別に添付されているので、生徒は自分でドリルの採点もできる。テストや学級会(先生が「生徒」に向かってひとりで話すのだが)のビデオもある。生徒の顔が見えないビデオの授業では、生徒が理解したのかどうかが分からないため、色々な質問を想定して説明することも必要だ。とはいえ、質問がある生徒はフェイスブックやツイッター、ビデオのコメント部分に書いておけば、たいてい先生が答えてくれる。
日本関連のイベントで出会った多くの若者が 「日本が大好きで日本語を習いたいけれど、お金がかかるから無理」と言うのを聞き、このビデオ講座を始めた。「インターネットという文明の利器がある21世紀、お金がないと知識が得られないなんてありえない」と、ネットで、無料で教えることにこだわる。広告は入れないので収入はない。ビデオの制作費や生活費は日本語の個人授業(ビデオではなく直接教える)で稼ぐ。ナマのジュリアン先生の個人授業を受けられる生徒は、35人ほどに限られる。
授業の撮影は、ノルマンディーの自宅。小さなアパートの室内で、撮影の度に家具を片隅に寄せ、机をきれいに拭き「スタジオ」を整備する。ビデオは1本が15分前後だが、ワンカットで撮りきることにこだわる。「先生が生徒の前にずっといる本当の授業のようにしたいから」、短いカットのつぎはぎではダメなのだ。(でも失敗したら最初から撮り直し)。収録画面にテロップをつけたり、ドリルの練習問題を作ったり、1本のビデオを完成させるのに5日間を要する。
リヨン生まれのリヨン育ち。学校でラテン語を習い、ドイツ語と英語も流暢だ。他にも情熱を持っているのがフランス語。後ろで結わえた長髪とヒゲの形から「ダルタニャン」の異名を持つジュリアンさんは、デュマやユゴーの文学を愛し、中世の歴史も大好き。日本語講座では、抑揚があり饒舌な説明で生徒の心をつかむ。ビデオの終わりには学校のチャイムが鳴り、生徒は15分が経過したことにはっと気づかされるのだ。
『大乱闘スマッシュブラザーズ』などのビデオゲームが大好きだった高校時代、最新ゲームの説明書を読みたくて日本語を独学。アニメ『デスノート』からも語彙を吸収した。科学系バカロレアを取得後、リヨン第三大学で日本語を専攻。日本文化と日本語を貪るように学んだ。「とにかく日本語が大好きだったから、8割の学生が脱落する文法の授業も苦にならず、一晩で漢字を50字覚えたりもした」という。
そんなジュリアン先生の情熱は、ビデオからも伝わってくる。YouTubeに、「先生ありがとう!」と、生徒たちがたくさんのお礼を書き込むのが、何よりも嬉しいという。こんな先生の登場で、日本語人口がにわかに増えるかもしれない。Cours de japonais!(集)