Jesper Christiansen
Temps, peintures et nota bene
物価上昇が止まらない今日、無料で入れる美術館があるのはありがたい。その一つが、シャンゼリゼにあるデンマーク文化センターMaison du Danemarkの現代美術館「ル・ビコロール Le Bicolore(「2色」の意)」だ。デンマークの国旗が二色旗であることから、フランスの三色旗(トリコロール)をもじってこの名前にしたという。フランスではあまり知られていないデンマークの芸術家を招き、質の高い展覧会を開催している。
7月末まで開催中のイェスパー・クリスチャンセン(1955-)は、その中でも、現代最高の画家の一人とみなされている大御所だ。車を持たず、シェラン島の自宅から15キロメートルの範囲の場所に電動自転車で移動し、そこで見た風景をもとに描く。
緻密に描かれた風景画は、見たままを描いたかに見えるが、よく見ると遠近が正確ではない。「マーティン・A・ハンセンの自転車旅行」(上の写真)という作品では、手前に実物大で描かれた自転車が背景に比べると異常に大きい。観客にもこの自転車に乗った気分になって風景の中にはいってほしいからだと言う。地面に置かれた本は、20世紀前半のデンマークの作家、マーティン・A・ハンセン(1909-1955)の日記だ。ハンセンはこの地方に3−4か月住んでいた時、インスピレーションを得た場所のことを日記に書いた。この本も実物大で描かれている。
別の絵では、同じ季節に盛りにならないはずの複数の植物が描かれている。2つの違う季節をあえて描き込んで、1つの絵から時間の流れが感じられるようにした。2次元の絵の世界に4次元を持ち込んだのだ。彼の絵にはこのような仕掛けが随所にあり、丹念に見ていくとそれに気づく。
文字が書かれていることもある。文字や文章を入れるようになったのは、パリでサイ・トゥオンブリーの絵を見たのがきっかけだった。文字がはっきり浮き出るトゥオンブリーの作風と違い、クリスチャンセンでは風景の後ろに隠れていて、よく見ないと書いてあることに気づかずに過ぎてしまう。
会場で上映されるドキュメンタリー映画を見ると、この人の仕事ぶりがうかがえる。アトリエには大量の絵筆や絵の具がきちんと並んでおり、まるで画材店のようだ。几帳面な性格なのだろう。しかし、「自分はリスクを負う行動はしないが、仕事ではリスクの多いことをする」と語っている。王立美術学校の入学試験で、提出した作品は上手ではなかったが、やる気を買って入れてくれたという。大物でありながら、驕らず、謙虚に前に進んで行こうとする姿勢が随所に見られ、好感が持てる。内覧会でも気さくに質問に答えてくれた。
映画の中で彼が発した言葉は今も心に残っている。「絵にアイデアはいらない。絵そのものがアイデアだ」。(羽)
La Bicolore(Maison du Danemark内)
Adresse : 142 Avenue des Champs-Elysées , 75008 Paris , FranceTEL : 01 56 59 17 44
アクセス : GeorgeV / Charles de Gaulle - Etoile
URL : Lebicolore.dk
月休、火-日 12h-18h。無料。