絹織物と言えばリヨンが有名だが、ロワール川流域のトゥール郊外に17世紀から続く絹織物の会社があると聞いて訪れてみた。
壁布、カーテン、椅子・ソファなどインテリア用の高級シルク生地を製造するジャン・ローズ社だ。シャンボール城、ヴィランドリー城などのロワール川古城、美術館、高級ホテルや国内外の邸宅のインテリアを優雅に彩ってきた無形文化財企業。12代目のアントワネット・ローズさんに年代物の織機の並ぶアトリエを案内してもらった。
トゥールを中心とするトゥレーヌ地方では、1470年にルイ11世がイタリアの絹織物職人を呼び寄せて絹布生産が始まり、王族・貴族の需要に応えるべく、この産業が栄えた。17世紀にはトゥールの人口の半分にあたる4万人が絹織物業に従事していたという。
ジャン・ローズ社の創始者ジャン=バティスト・ローズがトゥールにやって来たのは1660年頃で、金銀・絹織物製造商として王室に重用された。19世紀にはジャガード織機が登場して生産性が上がるとともに競争も激化。8代目ルイ・ローズは高級品に的を絞り、11代目のジャンさんは建築家ジャン=ミシェル・ヴィルモットと組んでコンテンポラリーな柄を考案し、70〜90年代にはオマーンやアブダビなどアラブ諸国にも顧客を増やした。
小さい頃からアトリエで織機に親しんできた娘のアントワネットさんは「一家のノウハウを伝承する役割を果たすのは自分」と考え、父親の死とともに1986年に26歳で社長に就任。こうして時代に呼応して家業を続けてきた同社だが2018年8月にアルノー・ルベール氏に買収された。だが、ローズ家のノウハウを体現するアントワネットさんは今も企画・生産の責任者だ。
インテリア向けの高級絹布は原料の絹糸の品質が第一だ。イタリアやフランスの製糸会社から仕入れた絹糸を外注で染色し、パンチカードを使ったジャガード織機で織る。
幅80〜100cmの布を織るのに非常に細い経糸と緯糸を計4000本から最高3万本使うため、織る前の糸の準備は特殊な技術が必要だ。ダマスク織、模様がふくらんだ感じのブロカテル織、金糸、銀糸が豪華なランパス織など、上品でクラッシックな風合い緻密なジャガード柄が出来上がる。
絹のダマスク織は安いものでも1m 300ユーロ。ほとんどはインテリアデザイナー経由の個人客向けの注文だが、80年代からは一般の認知度を高めるためにコレクションを毎年発表している。絹布は高価なために、18世紀頃から麻や綿、ウールの混紡が始まり、戦後はレーヨンも使うように。現在は絹糸以外の原料は半分程度の割合だが、上質の糸を仏・伊の製糸会社から仕入れるのは変わりない。
とくにルイ14世様式の独特な植物柄は今でも人気で、イギリスなどを中心に輸出が売上の70%。メイド・イン・フランスのブランド力で「さらに輸出に力を入れたい。また、将来的にはエコロジーの観点から大麻(ヘンプ)、セイヨウイラクサの繊維も使いたい」とアントワネットさんは意欲満々だ。(し)