政府の年金制度改革案に反対する12月5日に始まった無期限ストにより、国民生活に甚大な影響が出ている。政府はこれ以上の長期化を避けようと躍起だが、スト参加者らの決意は固い。
スト初日は、国鉄の運行する電車の9割がキャンセルされ、パリの地下鉄は全16路線中11路線が終日運休、郊外線も5路線中3路線がストップ。公立の幼稚園から高校までの教員46.6%がストに参加したほか、航空管制官や石油精錬所、パリ・オペラ座のダンサーなどもストを行った。また全国100以上の都市で80万6000人がデモ行進。デモ隊と治安当局との衝突も起きた。
国鉄とパリ交通公社のストは11日現在も続いている。スト開始当初は自宅勤務や有休を取っていた人たちも、職場復帰を余儀なくされ、数少ない公共交通機関に乗る人が殺到。パリと近郊の道路も渋滞が悪化している。10日は新たなデモが各地で行われ、先の見えない状況に市民の不安は高まっている。同じく年金改革案に反対して行われた1995年のスト同様、3週間続くのではと危惧する声もある。当時のシラク政権は最終的に改革を断念した。
この失敗に懲りてか、年金制度改革は長年先送りされてきた。現行の制度には、国鉄職員、教員、公務員などが優遇された特別制度があり42種類に及ぶ。また規定や例外が多く、年金額の計算は複雑だ。政府の改革案は、これらを統一する普遍的な年金制度を創設するというもの。職業による差がなく、将来受け取る額が計算しやすい制度を目指すという。
だが優遇されている年金制度には17世紀から続いているものもあり、歴史的な既得権を奪うことは容易ではない。国を支える職業に従事する人々が国から見返りを受けるのは当然と考える人も多い。
フィリップ首相は7日、年金制度の赤字を将来に持ち越すことは無責任で「国民はいつか改革しなければいけないと知っているはずだ」と呼びかけた。優遇制度の廃止による痛みを軽減するため、改革は段階的に行うと理解を求めた。
さらに労組との交渉は昨年から十分に行ったとして、9日で交渉を終了し、11日に法案の全貌を発表すると宣言した。個別交渉を続けてストが長期化するのを避ける策だが、国民が納得するかは不透明だ。改革を旗印に当選したマクロン政権にとって法案を取り下げることは存在意義に関わり、背水の陣が敷かれている(重)。