国民議会は12月4日、左派連合(NFP)の提出した内閣不信任案を賛成331票で可決した。わずか3ヵ月間と短命だったバルニエ首相は5日、マクロン大統領に辞表を提出した。来年度予算案が国会で成立しておらず、早期の新首相任命と新組閣が待たれる。
首相が2日、憲法49-3条の規定を利用して採決なしで社会保障予算案を強行に成立させたことを受け、NFPはかねて予告していたように内閣不信任案を提出。左派連合、極右の国民連合(RN)および、共和党から離脱した右翼グループの賛成を集め、総議席数574の過半数を超える331票を獲得。RNも独自の不信任案を提出していたが、先に左派の不信任案が可決されたため、こちらは採決されなかった。
バルニエ首相は任命当時から短命だろうと言われてきた。6月の欧州議会選挙での極右躍進、与党敗北を受けてマクロン大統領が国民議会を解散し、7月の総選挙実施を決めた。その結果、左派連合が第1勢力となったものの、極右と与党連合もそれとほぼ拮抗する議席数となり、三つ巴に。与党連合は過半数割れしたため、第4勢力(得票率はわずか6%)の右派、共和党と組んで同党のバルニエ氏を首相にし、閣僚はマクロン陣営と共和党が約半分ずつという、国会勢力を反映しない政府が9月下旬に発足した。
第1勢力にもかかわらず政権から排除された左派連合、そして極右RNは政策に賛同できない場合は内閣不信任案を提出すると宣告されていた。10月8日に左派連合が提出した内閣不信任案は極右の棄権により、賛成は197票にとどまり否決された。しかしながら、左派からの多数の修正案が反映された予算法案が国民議会で否決されて政府原案のまま上院審議に送られた上、社会保障予算案が2日に強行採択されるに至って、左派が再び内閣不信任案を提出。財政赤字削減のための緊縮予算案に不満を抱くFNがそれに相乗りした形になった。
ところが、来年度予算案は本来、今年中に成立させねばならないもの。これから、組閣される政府が新たな予算案を提出するのでは間に合わない可能性が高い。予算が成立しなければ国の財政が回らないため、あらゆる方面に影響が出る。その場合は、新政府または現政府が憲法第47-4条を適用して新政府が始動するまで暫定的に2024年度予算を来年も継続させることができるという。早急に首相任命・組閣するのか、政党色のない大臣による実務政府を仮に作るのか、夏のアタル内閣のように現政府が新政府誕生まで実務を続けるのか……。1年以内に2度の議会解散はできないため、マクロン大統領には再度の議会解散の選択肢はない。左派の「服従しないフランス党(FLI)」、さらに明言はしないがRNは大統領の辞任を求めている。左派連合は当然ながら左派出身の首相を任命するよう呼びかけている。
仏経営者連盟(MEDEF)は「信頼性のある経済展望を持てる政府により、早急に安定性を取り戻すことが大切」と経済界の不安を表明した。ウクライナ戦争が長引くなかでの米大統領交代を間近に控え、ドイツの連立政権崩壊など欧州の不安定要素が増している。1962年以来、第5共和政でわずか2度目の内閣不信任成立。欧州の大国フランスにはこれまでになく安定が求められているのだが……。(し)