
表は子山羊(キッド)、裏地はシルク100%の婦人用手袋。160ユーロ。
最近は暖冬も珍しくないが、手袋はフランスの冬の必需品。防寒だけでなく、マフラーや帽子とともに冬のファッションに欠かせないアイテムだ。
フランスの革手袋の歴史は古い。儀式用や兵士の手袋などは古代末期から使用され、手袋製造業の歴史は11世紀にまでさかのぼる。王侯・貴族のものだった手袋は19世紀に大衆に普及し、ミヨー、グルノーブル、サン・ジュニアンなどが伝統的生産地として繁栄した。
近年はアジアなどに市場を侵食されながらも、この3地域には今でも手袋産業が残る。今回訪問したジョルジュ・モラン社は、フランス一の革手袋産地サン・ジュニアン(リモージュの西30km)にある。1960年代には120軒余りあったうち、今も残る3軒のひとつだ。
かつては羊や山羊の放牧が盛んでヴィエンヌ川の水にも恵まれたサン・ジュニアンは、11世紀から皮なめし業と手袋製造が始まった。そのノウハウを受け継ぐこの地に、フレデリック・モラン現社長の祖父で手袋職人のジョルジュさんが1946年に創業した。
一般の婦人・紳士用革手袋のほか、ゴルチエ、ランバンなどの高級ブランド品、86年からは空軍パイロット、憲兵などの特殊な高機能手袋も製造し、それが売上の3分の2を占めることで、冬に偏る需要をカバーする。売上の半分を占める輸出先は、日本が3割、ロシア、米、英などで、今後はさらに輸出に力を注ぎ、同時にスポーツ用グローブ分野にも進出しようとしている。
1550m2の本社・工場で、30人が年間5万〜6万組の手袋作りに励む。一般手袋の製造工程見学で感じたことは、彼らが革のスペシャリストで、かつ革へのこだわりが強いということだ。
同社が使う革は薄くて丈夫な子山羊(キッド)が圧倒的に多い(婦人用は8〜9割。男性用はラムも多い)のだが、国産の原皮を仕入れて、地元のなめし業者に外注してなめしてもらい、望みの色と厚さに仕上げてもらう。

(写真左)縦に横に。革を引っ張る。(写真右)革を裁断するための金型。
その革を少し湿らせて伸ばした後、「切り手coupeur」がさらに縦横両方向に何度も引っ張り、一枚の革から一組から数組の手袋の本体(長方形)、親指、指間のマチを大ばさみで一気に切る。
切った後も机の縁やナイフでさらに引っ張る。このように革を痛めつけるかのように何度も引っ張るのは、革を柔らかくし、厚みを均一にするためだ。
本体の革は、さらに金型に合わせてプレス機やコンピュータ制御された機械で裁断される。縫製の前には各部分の微妙な色目をチェックする工程もある。縫製は様々な縫い方によって異なる特殊なミシンを使う細かい作業だ。飾りステッチや裾かがりは手縫い。

仕上げは「main chaude 」を使って形を整える。
仕上げは、一つひとつの手袋をmain chaudeと呼ばれる約150℃に温めた金属の手型にはめて形を整え、縫い目をチェックする。これでアイロンをかけたようなきれいな商品が出来上がる。
「会計を勉強したけど、子供の頃から祖父に教わった革のことと、手袋作りが好きで家業を継ぐことにした」とフレデリックさんが言うように、モノ作りにこだわりがないとできない仕事だ。
革手袋を買う時は、縫い目がしっかりしていて手にぴったりのものを選ぶこと。使った後は必ず縦によく引っ張ることだそうだ。(し)

(写真左から)紳士用手袋。表は子羊(ラム)、裏地はシルク100%。180.00€。/婦人用の赤い手首リブ付き手袋。表は子羊(キッド)、裏地はカシミア。140.00€。/ベージュのフリル付き婦人用手袋。表は子羊(キッド)、裏地はシルク100%。160.00€/グレーの婦人用手袋。表は子羊(キッド)、裏地はシルク100%。革ひも飾り。190.00€。
